今シーズン、自分用にピアチェンツァのDUENS(ベビーキャメル)で、ネイビー×グレーのハウンドトゥースジャケットを仕立てました。私はDUENSのキャメルカラー(無地)のジャケットを愛用しているの、その暖かさと肌触りの良さは知っていました。だからこそ今回は同じ素材で色柄違いの一着を選びました。手持ちのネイビー無地ジャケットよりほんのり遊びがあり、大柄のチェックより合わせやすい。実際に仕立てて袖を通して感じたリアルな着用感やコーディネートの楽しみ方をご紹介させていただきます。
ピアチェンツァ「DUENS」の魅力と、再びこの素材を選んだ理由

• 素材・目付け:ベビーキャメル100% / 310g
私自身、以前仕立てたDUENSのキャメルカラー(無地)を着る中で実感したのが、カシミヤとはまた一味違う、キャメル特有の「しなやかなヌメリ」と「生地のコシ」が共存する独特の風合いでした。店頭にディスプレイしている私のキャメルジャケットをご覧になったお客様から、「これ、カシミヤ?」と聞かれることも度々あります。実際に袖を通してみるとカシミヤに比べてコシがあり、着用したときにどこか安心感があります。(カシミヤに安心感がないという意味ではなく、どちらも上質でデリケートな素材ですが、キャメルの方がしっかりとしたコシを強く感じるという意味です) また、キャメルはカシミヤ同様に多孔質繊維(空気を含みやすい構造)のため、非常に保温性に優れています。気温がぐっと下がるまでは、インナーにカットソーとスカーフを合わせて着ていましたし、真冬にインナーをニットにして暖房の効いた室内にいると、設定温度が高い場合には少し暑さを感じることもあるほどです。それくらいしっかりと暖かさがあります。この独自の質感と暖かさを体感したからこそ、「同じ素材で、今度は違う表情を楽しみたい」と思ったのが、今回色柄違いで再びDUENSを選んだ理由です。
なぜハウンドトゥースなのか?
私はこれまで無地のネイビージャケットをはじめ、ブラウン無地、ヘリンボーン、グレンチェックなど様々なジャケットを着てきました。そのため今シーズンは、手持ちのどれとも被らない一着を探していました。私がイメージしていたのは、ネイビー無地ジャケットよりほんのり遊びがありつつ、大ぶりのチェックジャケットより着こなしの幅が広いもの。これを具現化できると感じたのがネイビー×グレーのハウンドトゥースでした。ネイビーとグレーというメンズスタイルの基本色の組み合わせなので色合わせに悩むことがなく、大柄のチェックに比べると柄が控えめなので幅広いアイテムと合わせられます。
実は以前、白×黒のマイクロハウンドトゥースのジャケットを着ていたことがあります。柄が小さく無地感覚で羽織れるものの、ドレスのテイストが強く「スーツなら良いけれど、単品ジャケットとしてはもう少し遊びがあっても良いかな」と感じていました。その点、今回のDUENSはネイビー×グレーという色合いも、柄の大きさも、単品ジャケットとしてちょうど良い塩梅だと感じています。
また、DUENSのハウンドトゥースを選んだのには生地そのものの面白さもあります。キャメルはヨーロッパではカシミヤに次ぐ高級素材ですが、カシミヤに比べると少し価格が抑えめという魅力があります。さらに、キャメルは原毛の特性上、色を染めるのが難しいため、出回っている生地のほとんどはいわゆる「キャメルカラー」の無地です。そうした中で、柄物でなおかつネイビー×グレーという色合いは非常に珍しく特別感があります。
軽快さと柔らかさを生み出す仕立てのこだわり
通常の仕立てでも十分に軽快ですが、今回はタイドアップ以外の着こなしも想定し、より軽快感が出るよう芯地を薄く仕上げました。フロントがふんわりと返るくらい軽やかに仕立てることで、襟からフロントにかけて緩やかな曲線が生まれます。襟の登りから肩、フロントまでを曲線でつなげることで、着心地はもちろん、見た目にも丸みを意識した柔らかな雰囲気に仕上がっています。
ラペル幅(襟幅)の設定は、スーツを仕立てる時よりもやや細めにするのが私のこだわりです。ジャケットの顔であるラペルは幅が広いとクラシック、細いとシャープでモードな雰囲気になります。このハウンドトゥースジャケットはリラックスした着こなしをする場合もあるので、少しだけクラシックテイストを和らげるのが狙いです。とは言え、基本はクラシックスタイルの範疇の中での微調整として考えているので、極端に細くはしません。あくまでも軽快なエッセンスを取り入れる程度にとどめています。
横姿に色気を生むナポリスタイルの袖付け
鏡に映る自分自身を見る時、そのほとんどが正面です。そのため正面からの見え方を考えるのは大切ですが、私自身は横からの見え方にも同様にこだわっています。横から見た時の二の腕の背中側の袖ラインをご覧になってみてください。袖の後ろ側がふんわりと膨らんでいるのがお分かりいただけると思います。一般的にこの部分のラインはここまで膨らみませんが、ナポリのサルトが手縫いで仕立てるジャケットは、このように袖の後ろがきれいに膨らみます。これは当店が型紙の設計において大切にしているこだわりのひとつです。ナポリスタイルを踏襲したこの袖付けによってこの部分に綺麗な曲線が生まれ、横姿にも独特の色気が宿ります。さらにこの袖付けの手法をとることで、着心地そのものも向上します。
袖付けについてのこだわりはこちらでご覧いただけます。
ダブルスーツの新型紙。オーダーだから追求できる着心地とシルエット(袖付けの秘密をご覧ください)
フィレンツェのディテールを取り入れた袖ボタン
袖ボタンを1つにするのが、私のジャケットスタイルにおけるこだわりのひとつです。一般的なジャケットでは4個重ね付けが多く、それが最もクラシックなスタイルです。ただ前述した通り、私はジャケットにおいて程よい軽快感を出すのが好きです。そのため、あえて袖ボタンを1つにすることで軽やかな印象に仕上げています。これはリベラーノをはじめとするフィレンツェのサルトによく見られるディテールですが、ナポリスタイルの仕立てにミックスして楽しんでいます。
私なりのハウンドトゥースジャケットスタイル

柄物のジャケットはコーディネートが難しいと感じる方もいらっしゃると思いますが、私自身はいたってシンプルに考えています。普段合わせているのは、サックスブルーのシャツにネイビーの無地タイ、そしてミディアムグレーのウールスラックスです。ジャケットに使われているネイビーとグレーと同色系でトーンを揃え、色数を絞ることで、まとまりのあるVゾーンを作ることができます。タイは軽やかな仕立てのものを合わせ、あえて小剣をのぞかせるような「はずし」を入れることで、クラシックな柄に少し変化を加えています。
色数を抑え素材のコントラストで深みを出す
色使いをシンプルに絞っているからこそ、素材のコントラストには特に気を配っています。ベビーキャメル100%のジャケットは秋冬らしい温かみと豊かな表情を持つ素材です。そこに合わせるシャツはあえて質感の異なるコットン&リネン、タイはアットヴァンヌッチのウールセッテピエゲを選んでいます。色数を抑えたうえで素材感のメリハリをつけることで、それぞれのアイテムが引き立ちVゾーンに自然な奥行きが生まれると感じています。色柄を重ねて遊ぶスタイリングも魅力ですが、私自身はこうした控えめな組み合わせの中でさりげなく質感を楽しむスタイルが好きです。
足元はスエードローファーで程よいリラックス感を
足元はジョーワークスのブラックスエードローファーを合わせています。程良いリラックス感のあるジャケットスタイルにはスエードローファーが良く合います。このローファーはジョーワークスの既製ラインで踵の芯を配したリラックスした履き着心地が特徴で私好みのジャケットスタイルには欠かせないアイテムです。
今の私に馴染む一着
私は仕事柄、ドレスコードが自由なこともあり、これまで様々な個性的な色柄の服を楽しんできました。そうやって一通りの着こなしを経験してきた今、改めて惹かれたのが「ベーシックな装い」でした。ただ、単にベーシック一辺倒だと、どこか物足りなさを感じてしまうのも事実です。そうして行き着いたのが、ネイビー×グレーという基本色でありながら、程よい主張と遊びのあるこのハウンドトゥースでした。仕上がったジャケットに袖を通し鏡の前に立ったとき、自分の顔色がパッと明るくなる感覚がありました。派手な色を着れば分かりやすく華やかになりますが、年齢を重ねた今の自分には、もっと自然体で馴染むような着こなしがしっくりきます。そういった意味で、このジャケットは今の私の気分にとても心地よくフィットしてくれました。
ファッションの楽しみ方は人それぞれで、何が正解ということはありません。ですが、もし私のようにクラシックをベースにしながら、肩の力を抜いたナチュラルな着こなしを楽しみたいとお考えの方なら、このジャケットはきっと重宝していただけるはずです。店頭には私が仕立てたキャメルカラーの無地とハウンドトゥースの現物に加え、生地ブックもご用意しています。ぜひ一度、手にとってその風合いを確かめてみてください。ご質問やご来店予約などはどうぞお気軽にお問い合わせくださいませ。















