私が自分用にオーダーしたジャケットをご紹介させていただきます。私は毎シーズン膨大な数の服地を生地メーカーさんからご提案いただきます。その中から自分好みの生地を見つけるために実際に生地に触れながら質感や肌触りを確認し、仕立て上がりを想像しながら生地を選んでいます。今回私は春夏用に淡い発色のサックスブルーのジャケットを作りたいと考えていました。頭の中にある漠然としたイメージを多くの生地に触れながら少しずつ具体的にしていく過程はオーダーならではで、ワクワクしながら生地を選びました。生地選びから仕上がりのご紹介まで、私がどんなことを考えてオーダーしたのかをお話しさせていただきます。
PIACENZA ARASHAN BREEZE(ピアチェンツァ アラシャンブリーズ)
今回のジャケットは素材の発色が鍵になると考えていました。と云うのも、メンズのカラージャケットは素材の善し悪しで発色が大きく異なるからです。私がイメージしていたのは淡く上品な発色のサックスブルーで、それを表現できるのはカシミヤだと思っていました。そんな時にタイミングよくメーカーさんからピアチェンツァの春夏の新作生地のご案内をいただきました。その中から私が選んだ生地は、アラシャンカシミヤ&シルク&リネンのサックスブルーのグレンチェックです。発色といい遠目には無地に見える控えめなチェックといい私のイメージにドンピシャです!
アラシャンカシミヤとは
中国の内モンゴル西部アラシャン地区という特定地域に生息するカシミヤ山羊の毛。 夏は40度以上、冬はマイナス30度になる厳しい環境で、冬の寒さを凌ぐための産毛がアラシャンカシミヤとして産出されます。カシミヤの中で一番繊維が細くて長く、別格のクオリティを誇り、毎年最高価格で取引されるカシミヤの中で最高品質のカシミヤです。純白の原毛は色の染まりがキレイで他のカシミヤやウールでは表現できない発色の美しさがあります。
私がセレクトした生地はアラシャンカシミヤ60%・シルク32%・リネン8%の3者混。目付けは何と180グラムです。 カシミヤの原毛はウールに比べると細く、その中でもアラシャンカシミヤの原毛は更に細くて繊細です。 デリケートなアラシャンカシミヤの原毛をここまで細引きして、耐久性を担保しつつ180グラムという驚異的な軽さの生地に仕上げるには相当な技術力が必要です。繊細なカシミヤをここまで薄く軽くすると普通なら生地が裂けてしまうリスクが高まりますが、それを可能にしたのがピアチェンツァのこの生地です。シャツ生地のように軽いのにカシミヤの柔らかさとシルクのコシ、リネンの清涼感を味わえるジャケット生地でこれは仕上がりが楽しみです!
サックスブルーのオーダーカシミヤジャケット
仕上がりを待つ時間さえも楽しくて納品の日はいつも以上にワクワクした気持ちでお店に向かいました。仕上がりを見た瞬間、発色の美しさに溜息が漏れました。優雅で落ち着いた雰囲気ながらも主張があるのは、最高級カシミヤのアラシャンカシミヤだからこそ醸し出せるオーラでしょうね。落ち着きがあるのに地味ではない、個性的なのに華美すぎない、大人の着こなしに大切な要素が全て詰まったメンズのカシミヤジャケットに仕上がりました!
私のこだわり
アラシャンカシミヤの軽さや柔らかさ、素材の持つ自然な膨らみ感となめらかさを活かすため、仕立てとディテールに私なりのアイデアを盛り込みました。この特別な素材の良さを引き立てるための私のこだわりについてお話させていただきます。マニアックな内容で恐縮ですが、極力、分かりやくお話しますので、楽しんでご覧いただけたら幸いです。
軽やかな生地を活かす軽快な仕立て
私はこれまで軽い仕立てにする場合には芯なしに、タイドアップを前提とするスーツやジャケットはソフト芯を使って柔らかく仕上げてきました。今回のアラシャンカシミヤのジャケットはラグジュアリーでエレガントな雰囲気を持ちつつリラックスしたカラーなので、ソフト芯と芯なしの間ぐらいの雰囲気で楽しみたいと考えていました。芯地の使い方について2~3日考えた結果、ソフト芯を一枚剥いでより薄くして仕立てました。今まで試したことがない方法でしたが、私の考えているイメージにかなり近い仕上がりになると思ったのでトライしてみました。結果的にめちゃめちゃ軽い着心地に仕上がり大成功です!適度な保型性とカシミヤ特有の柔らかさを良い塩梅でミックスできたと思います。
立体的で色気のあるフォルム
キレイな弧を描くフロントラインはボタンを外して着たときに立体的で艶っぽいフォルムになります。襟から前端(ボタンホールの先端)にかけてふんわりと立ち上がってキレイな曲線になるように型紙のバランスに相当こだわりました。襟の角度やボタンの返り位置など5ミリ単位の調整を何度も繰り返して一番キレイに落ち着くバランスを探しました。
最高級カシミヤをたっぷり使った贅沢なアンコン仕立て
アンコンとはジャケットの内側まで表生地を使用する仕立てのことです。 アラシャンカシミヤの風合いを存分に味わいたかったので裏の仕様はアンコンにしました。高級なアラシャンカシミヤをたっぷり使うかなり贅沢な仕立てで既製品は勿論、オーダーでも見かけることが少ない仕様です。その理由は、ジャケットを着たときに内側は擦れるので、カシミヤのような繊細な素材だと摩擦によって生地が劣化しやすくなる可能性があるからです。そういうことを分かったうえで、最高級のアラシャンカシミヤを使った贅沢な仕立てにしたかったのでアンコンを採用しました。
カシミヤの風合いが際立つハンドオプション
柔らかなアラシャンカシミヤの風合いを最大限に味わいたかったのでMTMをベースに袖付けハンドと肩イセのオプションを追加しました。ハンド特有の柔らかな肩まわりの雰囲気がカシミヤの素材感を引き立てます。ふんわり柔らかな雰囲気に手縫いの温もりが加わったこの感じが個人的にはお気に入りです。
※ハンドオプションの詳細はこちらでお話していますのでよろしければ御覧ください。
ハンドのボタンホール
フラワーホールとボタンホールもハンドにしました。手縫い特有の太い糸を使ったボタンホールとアラシャンカシミヤのなめらかな表面感のギャップが服オタクの私にはたまりません!
シルエットがキレイに見える斜めのウエストダーツ
正面から見たときにウエストがシェイプされて見えるようにウエストダーツは斜めにしました。正面からご覧いただくと視覚的にウエストが細く見えると思いませんか?ミディアムフィットで自然体で着こなしながら視覚的なシルエットのメリハリを取り入れて、着たときに色っぽく見えるように型紙を見直しました。
サックスブルーのカシミヤジャケットのコーディネート
サックスブルーのメンズジャケットは、コーディネートが難しいとお感じの方もいらっしゃると思いますが、私が選んだような淡い色目のサックスブルーは合わせやすいカラーです。チャコールグレーとミディアムグレーのパンツがあれば、結構、簡単にコーデが可能です。一例として私が楽しんでいる着こなしをご紹介させていただきます。
ストライプのクレリックシャツ☓ペイズリータイ☓チャコールグレーのスラックス
シャドーのグレンチェックのジャケットは柄が控えめなので無地感覚で着こなしています。ストライプのクレリックシャツに大柄のペイズリータイという柄を重ねたコーデは華やかに着こなしたい気分のときにはぴったりです。ジャケット、シャツ、タイをブルー系で統一し、チャコールグレーのスラックスで引き締めてモダンなクラシックスタイルを楽しんでいます。
サックスブルーシャツ☓ストライプタイ☓チャコールグレーのスラックス
最初のコーディネートは柄を3つ重ねたスタイルでしたが、こちらはシャツを無地にしてタイとジャケットの2つの柄を重ねたスタイルです。ブラックのストライプタイを合わせるとまた違った雰囲気で着こなせます。こちらの方がクラシカルな印象ですね。
ホワイトシャツ☓ソリッドタイ☓チャコールグレーのスラックス
シャツとタイを無地にしたシンプルな着こなしも楽しめます。柄を極力使わないシンプルコーデですが、不思議とモダンな雰囲気が楽しめます。柄を3つ重ねるスタイル、2つ重ねるスタイル、柄がひとつだけのスタイル、あえて3パターンのコーディネート例をご紹介させていただきましたがいかがでしょうか。柄の数も合わせる色も決して難しくないと思いませんか?3つのスタイルを対比していただくとこのジャケットのコーディネートのしやすさがお分かりいただけると思います。
アラシャンカシミヤのサックスブルージャケットを着てみて感じたこと
アラシャンカシミヤのジャケットを選んで本当に良かったです。とにかく発色がキレイで着用すると顔周りの印象が明るくなります。コーディネートもしやすくて、サックスブルーのシャツに似た合わせやすさがあります。サックスブルーのシャツって何にでも合わせやすくて重宝しますよね?私の中ではそれと同じ感覚で、サックスブルーのシャツが合わせやすいのなら、サックスブルーのジャケットもそれと同じだと感じました。活動的でバイタリティ溢れる雰囲気を演出できるのでビジネスジャケットとして大いに活用すべきですね!
素材の良さからくるクラス感も申し分ないので、40歳以上の大人のビジネスマンの方に相応しいジャケットだと思います。ネイビー、グレー、ブラウンなどの王道カラーのジャケットと同じ感覚で楽しめるので是非トライしてみてください。爽やかで若々しいスタイルをお楽しみいただけると思います。生地に関するご質問やご相談、サンプルの下見も喜んで受けさせていただきます。気になる点がございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。
アラシャンカシミヤ60% シルク32% リネン8% 180g/m