丁寧な靴作りで評判のシューズメーカー、ジョーワークス。 その工房は東京・浅草から少し離れた台東区・清川にあります。
モノが生まれる背景には、必ず作る人、想いがあります。 作り手がどんな想いやこだわりを持って、どのような過程で製作しているかをお伝えすることで 「お客様に安心感や愛着を感じていただけるのでは?」と私は考えています。
そして、当店でジョーワークスの靴をご紹介させて頂く上でも、 お客様に作り手の想いや拘りをお伝えすることがとても大切だと思い、 そんな想いをお伝えするべく、ジョーワークスさんの工房にお伺いしインタビューにご協力頂きました。
今回お話をお聞きしたのは、駒澤 "ジェームス" 崇行氏。 業界内では、「ジェームス」と呼ばれているジョーワークの代表を務める方です。
駒澤氏は、日本橋三越本店でのオーダー会をはじめ、各地でのトランクショーなどにも出向いていらっしゃる方ですので、既にジョーワークスの靴を愛用されている方であれば、お会いされたことがある人もいらっしゃるかもしれませんね。
この記事では、駒澤氏へのインタビューを通じて見えてきた、 ジョーワークスの真摯なモノ作りの姿勢をお伝え致します!
小川
ジョーワークスさんでは、何名で靴作りを行っていらっしゃいますか?
駒澤氏
現在は、私、駒澤崇行と遠藤和敏を中心に、底付け担当も含めて3名で靴作りを行っています。
小川
皆様、どのような事をご担当されていらっしゃるのでしょうか?
駒澤氏
私は製造全般をやりつつ、営業や販売、日本橋三越本店他で開催しているオーダー会やトランクショー時のお客様対応を行っています。遠藤はパターンやつり込みの他、製造全般と営業や販売も担当し、底付け担当は底周り全般を担当しています。
小川
ジョーワークスを立ち上げる前、駒澤様はどのようなお仕事をされていたのですか?
駒澤氏
私はトレーディングポストでインポートの靴の販売をしていました。その後、独立して靴の企画や輸入の会社を経営した後、ジョーワークスを立ち上げました。 遠藤は「ギルド・フットウェア・カレッジ」というギルド・オブ・クラフツの山口千尋さんがやっている手製靴専門の学校で技術を学び、その後、セントラル靴で職人として働いていましたね。
小川
ジョーワークスさんの設立の経緯をお聞かせ頂けますでしょうか。
駒澤氏
「もっと情熱を注ぎ込めば良い靴ができるんじゃないか?」 「自分たちの手で良い靴を作りたい!」 そんな想いは持っていたので、靴工房を立ち上げたいという青写真は、何となくですけどありました。
セントラル靴へ私が仕事を頼んでいたこともあって遠藤と知り合い、そこへ経験も豊富で仕事も非常に丁寧な底付け職人も加わり、申し合わせたワケではないですが、偶然に色々なタイミングが重なって、ジョーワークスを設立することになりました。
小川
ジョーワークスさんの靴作りにおいて、こだわっていることは何ですか?
駒澤氏
靴作りの部分ではマシンメイドのグッドイヤーを基本にしつつ、必要な箇所に手仕事を入れるようにしています。機械化することで生産性は向上しますが、その中に手を入れる方がより良くなる部分が随所にあります。手仕事を入れることによってガラッと変わるというか、そういう所の手間を惜しまずに手を入れて作っています。マシンメイドのグッドイヤーの既製靴よりもワンランク上を目指しています。
小川
具体的にどの工程で手を入れると仕上がりが変わるのでしょうか?
駒澤氏
非常に多く色々ありますが、分かりやすい例を一つ上げるとするなら「つり込み」です。例えばアッパーが出来て木型に対して革をつり込むという作業がありますが、機械製造の場合、機械の強い力でガチャンとすれば基本的にはそれで出来てしまいます。 しかし、その方法だけでは木型の細かい凹凸に対しての付き方が完全ではありません。元々の木型をしっかり再現する為に、ジョーワークスでは、機械でつり込みをした後、ペンチを使って全て手作業で細部をつり込み直しています。そこが一番最初の段階で手を入れて作っていることの1つですね。
小川
それは、革を木型にキレイに添わせるというイメージでしょうか?
駒澤氏
そうですね。出来上がった木型に対して、アッパーをつり込むわけですが、その時に機械でガチャンとするだけでは、木型のカーブの所が浮いたりします。 それは、見た目にはほとんど分からないほどなので製品としては全く問題ないレベルです。でも、本来はその浮いている箇所をしっかり足に付けたいという狙いで開発しているわけですから、木型に対して誠実な靴ではありません。特にオーダーの場合、同じ木型の靴を履いている方に対してつり込みに誤差があると、毎回履き心地の違う靴になってしまいます。そうならない為にも手でつり込み直すようにしています。
小川
ジョーワークスさんの靴は、クロケット&ジョーンズやジョンロブなど、インポートの靴の薫りがします。「色気があるのにデザイン的にもやり過ぎていない」というような感想を当店のお客様から頂くこともございます。 その辺りはどのようにお考えでしょうか?
駒澤氏
他社と比べるということは意識していませんが、結果的にはそのイメージには近いのかもしれません。高品質な革靴はイギリスとイタリアが双璧をなしますが、そういった革靴としっかり張り合えるということを強く意識しています。 なので、デザインは奇をてらわず、「ジョーワークスの靴はこうだ!」みたいな強い個性をあえて出さないように心掛けています。ファッションの中で靴を目立たせるというよりは、コーディネートに上手く馴染ませたいと思っています。そういう意味で奇をてらった個性は出しませんが、その分、ど真ん中のデザインで王道から外さないように意識しています。
小川
「こんな方に履いて頂きたい」とお考えになることはございますか?
駒澤氏
現状、色々な層のお客様がいらっしゃいます。ビスポークを履いている方もいれば、ジョンロブを履いている方もいらっしゃいます。他には、初めて革靴を履くという若い方がオーダーしてくださることもあります。特定の誰かに向けてというよりは、色んな人にジョーワークスの靴を履いてみて頂きたいというのが本音ですね。
小川
コロナの影響もあり、過ごし方の変化と共にファッションにおいてもニーズの変化を感じています。 コロナの前後でオーダーいただく内容に変化はありましたか?
駒澤氏
デザインは変わりましたね。ビジネスで履く紐靴とスリッポンの割合が、コロナ前はビジネス7に対し、スリッポン3でしたが、 コロナになってからは、それが逆転しました。 「リモートワークになったので紐靴を履く機会が減った」「会社で過ごす時のドレスコードがすごく変わった」というお声が多く、ジャケパンでスリッポンの方が使いやすいというご要望はかなり増えましたね。ローファーやタッセルのご注文も増えましたし、素材ではスエードをお選びになるお客様も多くなりましたね。
小川
フィッティングについてのお考えや心掛けていらっしゃることはございますか?
駒澤氏
洋服も同じだと思いますが、お客様の足型は千差万別なので、フィッティングや補正に「これが正解」というものがありません。革によっても違いますし、デザインによっても違ってきますから。 デザインで言うと、ホールカットのような剥ぎがないデザインと、キャップトゥのような剥ぎのあるデザインだと革の移動の仕方が変わるんです。剥ぎのあるデザインは、木型に対してそこでクセを付けています。出来上がった時にはどちらの靴もピッタリと木型にくっついた状態ですけど、履いて馴染んできたときに、革の移動の仕方が違うので変わってくるんですよね。 そのため、リピートのお客様でもデザインによっては前回の補正データから調整するようにしています。 粋さんとのお取引は長いので、何度もやり取りをしていく中で、お客様の足のサイズや写真、フィッティングの状況を伺うと、その状況や意味合いなど、分かることが多くなりましたね。
小川
革についてご質問したいのですが、ハッチグレインは日本での取り扱いがない中、どのような経緯で取り扱うことにされたのでしょうか?
駒澤氏
以前から仕入れ先は知っていましたが、私たちは革の商社じゃないので輸入すると値段が高くなってしまいます。 そして、革の場合、どんなものが送られてくるのかが読めない恐さもあります。生き物なので仕方がないのですが、革1枚まるまる使えないなんてこともあります。知らない会社、しかも海外から直接買うのはリスクが高いと思っていましたが、試しに少しだけ買ってみたら、結構、良い革を送ってきてくれました。「これだったらやれるな!」と思ったのが、取り扱ってみることにしたキッカケです。
小川
納品後のお客様の反応はいかがですか?
駒澤氏
ご注文いただいた靴が出来上がり、その納品時に次の靴をオーダーしてくださるお客様も結構いらっしゃいます。 全体的にリピート率も高いので、気に入って頂けている証拠かなと思っています。
小川
納品後のアフターケアにおいて取り組まれていることはございますか?
駒澤氏
全てのお客様に、「履いていてどこか気になるところがあったら何度でも無料で調整します」と、必ずお声がけするようにしています。履き込んでいくと底が沈み込んできて形が変わってきます。場合によっては、そこで当たりが出ることも起こりえるので、そのようなご相談があれば、全て無料で調整させて頂いています。
小川
今後の新しいお取り組みなど、何かお考えになっていることはございますか?
駒澤氏
色々な方にジョーワークスの靴を履いて頂きたいとは思いますが、生産キャパの問題もありますし、新規でお取り使い頂くお店様を現段階では増やす予定はないです。お客様に満足して頂ける靴をご提供するのが一番なので、やみくもに拡大することは考えていません。新しいデザインとか事業を拡大したいとかということではなく、「お客様に満足して頂ける靴を作り続けていく!」これに尽きます。平和に暮らしたいですね(笑)
今回、駒澤(ジェームス)さんのお話を聞いて、靴作りに対する真摯な姿勢は勿論、強い責任感のようなものを感じました。 ビジネスはとかく売上を追い求めがちですが、商売の基本は「お客様に喜んでいただけること」。オーダー会やトランクショーなどに出向いて、駒澤さんご自身が接客されるのもこういったお考えがあるからのように思います。当店でお客様からのご注文を安心してお受けできるのも、駒澤さんをはじめとするジョーワークスの皆様がブレずに同じ志を持っているからです。「思いを共有して同じ方向に進む」パートナーとしての理想形のように感じています。今後もジョーワークスさんのご活躍に期待が膨らみます!
現在、中部地方から西側の地域においてサンプルを常設し、常時オーダーを承れる体制を整えているのは当店のみとなっております。ジョーワークスのオーダーを承る数少ない1店舗として、今後も作り手の想いやこだわりをお伝えすると共に、店頭サンプルの充実は勿論、積極的に情報発信を行っていきます。