ビスポークの考え方
当店でビスポークをご紹介するにあたり、私がこだわったのはビスポークをMTM(メイドトゥメジャー)と同じ工場の同じ職人の手で作り上げること。その理由はビスポークとMTMを別物と考えず、連携させたいという思いがあるからです。お一人お一人の体型やお好みに合わせて型紙を作り、手縫いで作り上げるビスポークは、MTMに比べると仕上がりまでの時間と費用が必要です。ビスポークを検討する際、「価格と納期」が障壁になることもあると思います。私は、どうしたら洋服にこだわりを持つお客様にこの「価格・納期」という壁を越えて頂きやすくなるのかを考えていました。その答えがビスポークとMTMを連携させることです。全く新しいビスポークの形をご案内するのが当店のビスポークです。
ビスポークとMTMの違い
普段、MTMで作り込んで頂いているお客様でもご自身の体に合わせて型紙を作るビスポークは更に素晴らしい着心地を味わって頂けます。ビスポークとMTMの一番の違いは、おひとりおひとりのお客様ごとに一から型紙を作成するか否かです。当店のMTMは、サイズ・体型補正とも対応範囲が広いのが特徴ですが、ベースとなる型紙に補正を施してお客様の体に合わせていくシステムです。一方、ビスポークはお客様のお好みや体型に合わせて一から型紙を作成して手縫いでお作りするのでより体にフィットします。このような違いから、普段、MTMで作り込んで頂いているお客様でもビスポークは着心地面で違いを感じて頂けます。
体に吸い付きバネのように伸縮する着心地
肩傾斜や体の前後バランスに合わせて型紙を作成するビスポークは、袖を通した瞬間に体に吸い付くような独特の着用感です。そして体の動きに沿うようにジャケットの肩、袖、アームホール、背中の縫い目がバネのように伸縮するのでとても動きやすくストレスの無い着心地を味わって頂けます。これも体型に合わせて型紙を作成し、手縫いでお作りするビスポークの魅力です。
ジャケットの立体感
ビスポークは手縫いの工程をふんだんに取り入れ、着心地に影響を及ぼさない部分や強度が必要な箇所はミシンを使用してお作りします。手で縫うことで運動量が増えて着心地が良くなるのは勿論、ジャケットに立体感や膨らみ感が生まれます。また、強度が必要な箇所にミシンを使うことで、手縫いの洋服ならではの味わいをお楽しみ頂きつつ、必要以上に取り扱いに気を遣うことなくデイリーにお召し頂けます。
手仕事ならではの味わい深さ
ビスポークのステッチや襟穴はハンドでお仕上げします。ステッチに太い糸を使ってみたり、あえてステッチを歪ませてクラフト感を出してみるのもユニークです。良い意味で「キレイに作り過ぎない」という遊びを取り入れて味わい深さをお楽しみ頂いてはいかがでしょうか。着心地に影響する箇所ではありませんが、こだわれる部分が増えるのもビスポークの楽しみ方のひとつです。
ビスポークにおいて大切にしていること
ビスポークにおいて当店は2つのことを大切にしております。
①事前準備・ヒアリング
②職人との対話
①事前準備・ヒアリング
ビスポークの場合、一から型紙を作成し、デザインは自由なので、お客様、職人の小島氏、私の3者間でイメージを共有しておくことが重要だと考えています。その為、採寸当日だけではなく、事前にヒアリングのお時間をいただくことを大切にしております。デザイン面では何かご参考になるような情報や写真をご案内させて頂き、お客様がお考えのスーツのイメージが明確になるようなお手伝いをさせて頂きます。また、フィッティングにおいては、普段どのようなことに不安や不便を感じていらっしゃるのかをお伺いさせていただきます。店頭にご用意しているMTMのゲージサンプルをご試着いただき状況を確認させて頂きます。そういった全ての情報を事前に職人の小島氏に伝え、採寸当日はその情報を元に、よりお客様に合った具体的なご案内ができるように心掛けております。
②スーツ職人の小島氏との対話
当店のビスポークは、お客様の洋服をお作りするスーツ職人の小島氏自らが採寸・フィッティングを担当させて頂きます。お客様の好みやイメージするデザインをお客様、職人の小島氏、私の3者間で共有できているので、製作工程の中で職人が思いついた手法やディテールを盛り込んで仮縫い・中本縫いを行います。お作り頂くスーツのイメージがどんどん膨らんでいくよう、「スーツ職人の小島氏との対話」をお楽しみ頂くことを心掛けております。是非、作り手に直接ご不安な点やご要望をお話しくださいませ。
当店のビスポークの特徴
当店のビスポークにはビスポークには2つの特徴があります。
①MTMとの融合
②ハウススタイルとそれ以外の自由なスタイル
①MTMとの融合
ビスポークでお作り頂いた型紙をMTMの生産ラインに乗せてお作りする『ビスポークMTM』をご案内させて頂きます。ビスポークで使用したお客様の型紙をCADに入れ、MTMの生産ラインでお作りするシステムです。ビスポークよりも価格を抑えて、且つ、短納期で完全オリジナルの一着をご案内させて頂きます。ビスポークでお作り頂いたお客様だけにご活用いただける価格面・納期面でも大きなメリットをお感じいただける特別メニューです。ビスポークの価格についてもお気軽にお問い合わせくださいませ。
※ビスポークMTMは、2023年秋ごろ導入予定でございます。
②ハウススタイルとそれ以外の自由なスタイル
お一人ごとに型紙を作成するビスポークは、基本デザインがないので自由な発想でお好みの一着をお作り頂くことができます。縛りがないのはとても良いことですが、反面、「ベースデザインがない」という難しさもあります。ご検討のスーツやジャケットなどのイメージが明確な方もいらっしゃれば、「どんなデザインが作りたい?」と聞かれても、なかなか思い浮かばない方もいらっしゃいます。当店のビスポークはそのどちらの方にもお楽しみ頂けるよう心掛けております。
当店ではビスポークおいても基本デザインとなるハウススタイルをご用意しております。ベースとなるモデルがある方がイメージしやすいという方は、是非当店のハウスモデルをご利用くださいませ。こちらをベースにご要望をお伺いさせて頂きます。
一方、ご検討のスーツやジャケットのイメージをお持ちの方は、その内容をお伺いさせて頂きます。写真やイラストをご覧いただきながらお話し合いを重ね、お持ちのイメージが形になるよう最大限お手伝いさせて頂きます。
ビスポークスーツのハウススタイルについて
当店は南イタリアのクラシックなスタイルを基本としておりますので、ビスポークにおいてもクラシックなナポリスタイルをベースにしております。ビスポークではクラシックをベースにしつつ、MTMよりもエッジの効いた襟デザインを採用し、型紙の基本構造も変更しております。
大人の男性の魅力を引き立てるラペル
ワイドラペルは南イタリアの伝統的なスタイルです。ビスポークでもそのスタイルを踏襲しつつ、ほんのりモードな雰囲気を取り入れました。ラペル幅10㎝でクラシックさをキープしつつ、胸ポケットから下の襟を細くすることでスーツに色気を取り入れました。
裾まで貫通したフロントダーツと2面体構造
左の写真をご覧ください。バストのダーツが裾まで通っているのがお分かり頂けるでしょうか。これはナポリスーツの伝統的なスタイルでより立体的で逞しい胸元を表現できるディテールです。
次に右の写真をご覧ください。ポケット付近には先程のダーツ以外、ベントのところまで縫い目がないのがお分かり頂けるでしょうか。これは2面体と言われる型紙の構造で、前身頃と後身頃の2つのパーツで作られています。ナポリのサルトリア製のスーツは今も2面体で作られています。現代において2面体で作られているジャケットは皆無と言ってもいいぐらいで、ほとんどが前身頃・脇身頃・後身頃の3つのパーツで構成される3面体という構造で作られています。2面体はウエスト周りのシェイプが難しいのと、オーダーにおいては補正の範囲もかなり限定されてしまうというのが3面体が主流な理由です。
フロントダーツを裾まで通して胸元にボリュームを出すのは2面体ならでは手法です。スーツやジャケットをお召し頂いた時に美しく見えるよう、当店のビスポークはナポリの伝統的な型紙と手法を再現しています。
ストレッチジャケットのような快適な着心地
手縫いの工程を多用するビスポークは、袖付けにおいてもイセ量をたっぷり入れることが可能です。運動量を多くとって手縫いで袖付けを行うことで肩周りの可動域が広がります。腕を前に出した時も体の動きに合わせてグッと伸びてくれるので、まるでストレッチのジャケットを着ているかのような快適な着心地を味わって頂けます。また、肩先のギャザーも表現しやすくなります。
リラックスした状態で如何に洒落に見せるか
ビスポークでお作りするスーツやジャケットは最高峰の逸品をお届けしますが、パーフェクトなクラシックスタイルは求めず少しズレた感じを意識しています。完璧に着こなしすぎないで、如何にリラックスした状態で洒落に見せるかというところにこだわっているのが当店のビスポークのハウススタイルです。
お客様がお持ちのイメージからお作りさせていただいたビスポーク事例
こちらはウェルドレッサーとしても知られるジャンニ・アニエッリ氏の着ていたダブルから着想を得てお作りさせて頂いたスーツです。当時の写真は構築的な肩で直線的な襟のVゾーンが深いダブルのスーツでした。氏の着用していたスーツの雰囲気を残しつつ、構築的な肩をナチュラルショルダー&マニカカミーチャでリラックスした表情に。直線的だった襟を緩やかに弧を描くラペルにに調整させて頂きました。北イタリアの構築的なスーツを南イタリアの柔らかな雰囲気にブラッシュアップしたようなイメージでお仕上げしました。
ビスポークをご検討の際、お客様がお持ちのイメージは、「低いゴージのVゾーンが深い、ワイドラペルのクラシックなダブル」というものでした。大まかなイメージをお伺いした後、幾つかイメージ画像をご案内させて頂き、お話し合いを重ねて少しずつお客様のイメージが形になるようにお手伝いさせて頂きました。
体に沿った立体的なシルエット
人間の体はヒップが膨らんでヒザにかけて細くなり、そこからふくらはぎが膨らんで足首に向かって細くなっています。クセ取りとは、この体のカーブに沿うようにアイロンワークで生地にクセを付けるビスポーク特有の工程です。体に沿った立体的な形状になるようお作りさせて頂きました。
お持ちのイメージが形になるようお手伝いさせて頂きます
当店ではビスポークの自由さを存分にお楽しみ頂けるよう、ハウススタイルに縛られずお客様のイメージを形にするお手伝いもさせて頂きます。具体的なイメージをお持ちではない場合、何となくの雰囲気をお話し頂くだけでも構いません。その情報を元に写真などで具体的なイメージをご案内させて頂きます。
ビスポークスーツ ご注文から仕上がりまでの流れ
当店のビスポークは、採寸・仮縫い・中本縫いの3工程を経てお作りさせて頂きます。以下、それぞれの工程の詳細についてご案内いたします。
※各工程の納期は状況により変動いたします。
生地・デザインのご案内
事前ヒアリングの情報を元に、生地とデザインについてさらに詳しくヒアリングさせて頂きます。ご検討のデザインやイメージなど、どんなことでも構いませんのでお話しくださいませ。また、生地と縫製の相性を考慮した作り手独自の視点からも生地とデザインをご案内させて頂きます。
ビスポークの生地の選び方
手縫いの工程やクセ取りを入念に行うビスポークには、職人の意図する形に動いて手仕事が映える生地が向いています。おすすめの生地の筆頭は、目付のしっかりしたハリコシがあるものです。こういった生地はクセ付けがしやすく、膨らみ感があるのでしっかりとイセ込んで手縫いされた洋服に立体感を与えてくれます。生地の張力とアイロンワークで立体的に作り上げるビスポークに最適な素材です。
一方で、カシミヤのような滑らかな質感の生地もビスポークにはよく合います。滑らかな生地は手仕事ならではの柔らかな雰囲気を魅力的に見せてくれます。そして、ハンドステッチなどの繊細な手仕事が映えるので手縫いならではの味わいを存分にお楽しみ頂けます。
採寸
お体のサイズを把握する為、採寸を行います。バスト、ウエストの他、背幅、前幅、肩の高さなど、全20か所を採寸させて頂きます。併せて体型の特徴も確認させて頂きます。
仮縫い
採寸後、1~2カ月後に仮縫いフィッティングを行います。
ヒアリングでお伺いしたデザインやシルエット、着心地をご確認いただき、ご感想やご要望をお伺いさせて頂きます。また、寸法や体型の特徴を踏まえて組み上げた仮縫いがお客様の体に合っているかを確認します。調整はお召し頂いた状態で袖や襟、肩を外し、実際に糸で縫いながらお客様の体に合わせていきます。お客様の体に完全に合わせにいくビスポークならでは調整方法です。
中本縫い
仮縫いフィッティング後、1~2カ月後に中本縫いフィッティングを行います。
中本縫いは1回目の仮縫いの情報を踏まえて組み上げた2回目の仮縫いとお考えください。襟を共地で作成するので着心地の他、全体のバランスなど、より明確に仕上がりをイメージして頂けます。デザインのお好みや着心地をお伺いさせて頂き、寸法や補正などに問題がないか再確認を行います。調整が必要な場合は、仮縫い同様、お召し頂いた状態で袖や襟、肩を外し、実際に糸で縫いながらお客様の体に合わせていきます。
仕上がり
中本縫いフィッティング後、1~2カ月で本縫い上がり(完成)となります。仮縫い、中本縫いで確認した項目の他、仕上がり具合を確認させて頂きます。また、次回以降、更にブラッシュアップした一着をお作り頂くために仕上がり時の写真を撮影し、その情報を職人の小島氏と共有するように心掛けております。お客様に喜んでいただきたいからこそ、情報の積み重ねと分析を大切にしております。
ビスポークをご検討中の方へ
当店ではビスポークのハウススタイルをご用意するとともに、ハウススタイルに縛られずお客様のイメージを形にするお手伝いもさせて頂きます。そして、お客様だけのオリジナル型紙でお作りするビスポークMTMをご用意しております。こだわりを形にしたいとお考えの方、体に合う着心地の良い一着をお探しの方、是非、一度お声掛けくださいませ。そして、ビスポークの価格や納期で一歩を踏み出しにくいとお感じの方、是非、お気軽にお問い合わせくださいませ。ビスポークの楽しさと投資する価値を感じて頂ける一着をお作りさせて頂きます。
お客様のお話をじっくりお伺いさせていただき、ご要望にお応えできるように努めております。オーダーメイドの製作のみならず、スタイリングやコーディネートのお手伝いをさせて頂くことで、お一人お一人の魅力引き立つファッションをお楽しみいただくことが一番の喜びです。是非、お気軽にご相談、お問い合わせください。