H様にはスーツのオーダーのご相談で初めてご来店いただきました。 28歳までは営業マンとしてスーツをお召しでしたが、その後、エンジニアリング会社を起業されてからは一度もスーツに袖を通す機会がなかったようです。38歳になられた今、もう一度スーツを着て自らも営業などをしたいとお考えになられたのがオーダースーツをご検討になるきっかけでした。自分に合うスーツを親身に考えてくれるお店をお探しの際、当店のホームページをご覧くださりメールでお問い合わせくださいました。
ご来店前の事前ヒアリング
最初は当店のホームページからメールでお問い合わせを頂きました。長年スーツをお召しではなかったのでスーツの知識も忘れてしまい、以前とは体型も変わっているので、一からアドバイスが欲しいとご相談をいただきました。私からは当店ではご検討段階で具体的なイメージがないご相談も大歓迎であることをお伝えし、ご来店前のヒアリングとしてご検討スーツのお色目など、例えば、「紺の無地がいい」、「ストライプが気になる」など大まかなお好みをメールでご質問させていただきました。H様はビジネス用のシンプルな色とスタイルがご希望で、カラーはダークネイビーかチャコールグレーあたりをお考えでした。この他、H様から「シュッとした印象を与えたい」というご要望をいただきました。色々な意味があり幅広く使われる言葉ですが、私は『スーツをスタイリッシュに着こなすことで好印象を与えること』と理解しました。当店ではご要望に沿ったご案内ができるよう、このようなご来店前の事前ヒアリングを大切にしています。
ご来店時のヒアリング
先ずはお召しになられる場面とお仕事の業界的な雰囲気をお伺いしました。 エンジニアリングは比較的堅い業界で、営業先は工場が多いとお聞かせいただきました。打ち合わせのお相手も社長や専務クラスが大半のため、華美にならずシンプルだけどカッコよく見えるのが理想とお考えでした。 スーツは週に1~2回ほど主に出張時にお召しになられるご予定で、アメリカに会社を設立した関係で今後は海外出張が増えることもお聞かせいただきました。お持ちのスーツの状況をお伺いしたところ、28歳から格闘技を始めて体型が変わった為、それまでのスーツは全て断捨離されたようです。これからはたくさんのスーツを揃えたいというより、本当に気に入った上質なスーツを長く大切に着ていきたいというお考えをお持ちでいらっしゃいます。
スーツ生地のご紹介
ご来店の当日は事前ヒアリングでお伺いしたイメージを基にご要望に沿った生地を準備してお迎えしました。 それに加え、ご来店時のヒアリングでお伺いした用途やご要望を基にネイビーの2プライフレスコをご紹介させていただきました。21マイクロンウールを使用した素材でシワになり難く、復元力に優れています。着用後、一晩ハンガーに吊るしておくだけで大方のシワは取れるので持参するスーツが限られる出張時にはとても便利です。また、ウール100%ながらストレッチ性に優れています。久しぶりにスーツをお召しになられるとお聞きしたので、肩が凝らない楽ちんな着心地も重要なポイントだと考えました。イタリア生地らしいキレイな発色のネイビーは38歳というご年齢ならではの若々しさや躍動感が伝わり、スタイリッシュな雰囲気も備えています。同時にシンプルな無地で経営者の落ち着きや信頼感を演出できるのでビジネスシーンでご活用いただけます。
※生地の詳細はこちらでご紹介しています。
採寸&フィッティング
左が50サイズで右が52サイズをご試着いただいた画像です。拝見したところ50サイズだと少し小さく、52サイズだとやや大きく、51ぐらいが適切なサイズです。ヨーロッパのサイズは通常44・46・48・50・52といった偶数で表記され奇数サイズの設定はありません。これは既製品、一般的なMTM(パターンオーダー)も同様です。オーダーの場合、寸法調整すればサイズを合わせることは可能ですが、よりお客様の体に合うサイズをベースに調整する方が着心地も良くキレイなシルエットに仕上がります。当店ではこのような考えから奇数サイズをご用意しております。今回は51サイズをベースにお作りさせていただきます。
H様は胸を張ったご体型です。胸を張ると背筋が伸びるので体が反った状態になります。体が反った状態なので洋服全体が後ろに引かれ、後ろから見るとヒップが当たって背中に余りがあります。横から見た時にベントが開いているのもヒップの当たりが原因です。袖振りもお体に合っていないので袖の後ろにシワが入っています。これらを解消する補正を施して仮縫いを行います。
左が50サイズ、右が52サイズをご試着いただいた画像です。パンツも同様に50サイズだと少し小さく、52サイズだとやや大きいので51ぐらいが適切なサイズです。今回は51サイズをベースにお作りさせていただきます。50サイズご試着時、ヒップ寸法が不足しているので横シワが入って脇ポケットが浮いています。この辺りはベースを51サイズに上げることで改善が見込めます。一方、尻ぐりはかなり食い込んでいるのでお召しいただ際に違和感がないように調整させていただきます。他、ふくらはぎの当たりを解消する補正を施して仮縫いを行います。
スーツ仮縫い
51サイズをベースに調整したことでバストからウエストにかけて程よいフィット感でスッキリ見えます。反り気味のご体型なので前から見るとジャケットが吊られて短く見えます。前身が本来の位置に落ち着くように調整幅を増やして本縫いを行います。次に後と横からの状態を確認します。後ろから見ると反り身によるヒップの当たりはサンプル試着時より改善されましたが、やはりもう少し調整が必要です。ヒップの当たりがある程度解消されてスッキリしたので、仮縫いでは肩傾斜尾の確認を行いました。ややなで肩気味のご体型で両脇にハの字のシワがある為、本縫いではジャケットの肩傾斜をお体にお合わせしてお作りさせていただきます。これらの調整を施すことで背の余りや袖のシワも改善に向かいます。
サンプル試着時は尻ぐりがかなり食い込んでいたので、仮縫いでは51サイズをベースに尻ぐり線を調整しました。食い込んでいた分が本来の位置に戻ることでサンプル試着時よりヒップ下が余っています。横から見ても太腿の後ろ側が余っています。腰が前に出ているご体型の場合、このように後が余るので本縫いではピン打ちの状態のように調整してお作りさせていただきます。
スーツ完成
青すぎない絶妙なトーンのネイビーは爽やかな印象で好感度が高く、躍動感のある雰囲気を演出できます。もう一度スーツを着てご自身も営業に出ることをお考えのH様に最適な一着に仕上がりました。ビジネススーツとして様々な場面でお召しいただけますので大活躍間違いなしです。
クラシックなワイドラペルをお選びいただきました。スーツに落ち着きや風格を与えるので役員クラスとのご商談が多いH様には最適なデザインです。
マニカカミーチャによる袖付けと手縫いのフラワーホールをお選びいただきました。どちらもクラフツマンシップ溢れるディテールでスーツに味わい深さが増します。人の視線はVゾーン付近に集まるのでここに装飾性のあるハンドホールを取り入れるとスーツのグレード感が高まります。
仕上がりご着用
スーツに合わせてオーダーいただいたシャツとジョーワークスのシューズにアットヴァンヌッチのタイを合わせてトータルスタイリングをご提案させていただきました。ブラウンベースのストライプタイでスーツの発色を際立たせ、コントラストが効いたVゾーンでスタイリッシュなスタイルを表現しました。スーツのサイズ感は体に沿ったミディアムフィットに。自然なシルエットに仕上げることで格闘技で鍛えた体が引き立ってスーツをお召しの際に着映えします。見た目にもスマートで「シュッとした印象を与えたい」というご要望にピッタリです。
お渡しから数カ月後に別件でご来店いただいた際、アメリカ出張と授賞式でスーツをお召しいただいたことをお聞きし、その時のお写真も拝見させていただきました。「すごく良かったよ!」と仰っていただけて私もとても嬉しい気持ちになりました。お気に召していただけて大変光栄です。 H様、この度はありがとうございました。今後のビジネスの展開、とても楽しみですね!お作りいただいたスーツが陰ながらお役に立てれば幸いでございます。ご愛用いただけますことを心より願っております。2着目にお作りいただいたスーツも楽しみですね!