「お気に入りのネクタイに、どんなジャケットを合わせればいいのか」「クラシックな装いは好きだけど、堅苦しくならず程よくモダンに着こなしたい」 服を着るとき、そんなことを考えることも多いのではないでしょうか。ジャケットを仕立てる際、一般的には「こんな色柄のジャケットが欲しい」というイメージから探すことが多いと思います。ただ今回は、「このタイを活かすためのジャケットが欲しい」という一つのネクタイを出発点にして生地を選びました。今回は、私が私物として仕立てたピアチェンツァのシルクカシミヤジャケットを例に、生地選びの理由から仕上がりの質感、実際の着心地、そして私なりのコーディネートの楽しみ方を詳しくお話しします。
ジャケット生地が決まるまでの経緯
頭の中にある漠然としたコーディネートのイメージを具現化していくための生地選び。手元にネクタイを置き、生地をひとつひとつ吟味しながら、理想とするジャケットの仕上がりや装いのイメージを少しずつ具体的に固めていきました。ここでは、私がどのようなことを考えながらこのジャケットの生地を選んでいったのか、そのプロセスをお話しします。
最初はDUENSのベージュグレンチェックを検討
当初候補に挙げていたのは、ピアチェンツァの「DUENS」に収録されているベージュのグレンチェックです。ベビーキャメルを使った非常に綺麗で上品な生地で色柄も好みでした。ただ、目的のアットヴァンヌッチのタイと合わせてみると、色が似すぎていてコーディネートの難易度が高いように感じました。
シルク&カシミヤとの出会い

どうしようか考えていたタイミングで代理店の方からご紹介いただいたのが、ピアチェンツァのシルク&カシミヤ(目付250g)のコレクションでした。見本を見るととにかく発色が良く、アットヴァンヌッチのタイを合わせてみるとイメージ通りのカラーバランスでした。
• 素材・目付け:シルク51% カシミア49% / 250g
グレンチェックから変更した理由
ただ、もともとグレンチェックで仕立てるつもりだったので、すぐに決めたわけではありません。なぜ最初に同色系のグレンチェックを選んでいたのかを改めて考えると、「クラシックな中に程よいモダンさを取り入れたい」という思いがあったからです。そう考えると、このシルクカシミヤのヘリンボーンも方向性は同じでした。ややピッチが広めのヘリンボーンなのでクラシックすぎず、モダンな空気感があります。織りの陰影によって素材感も引き立ち、タイとの相性も申し分ありませんでした。数日考えた結果、最終的にこのヘリンボーンで仕立てることに決めました。
仕上がったジャケットの質感と着心地

バンチ(生地見本)で見ていた時もキレイな生地だと思っていましたが、実際にジャケットとして仕上がってきたものを見て驚いたのは、ベルベットのような美しい毛並みと立体感でした。これは、ピアチェンツァ特有の伝統的な起毛工程によるものです。ピアチェンツァでは、カシミヤ生地を起毛させる際、金属の針ではなく乾燥させたアザミの実を使っています。植物の柔らかなトゲを使うことで、極めて細く繊細なカシミヤの繊維を傷つけることなく、ふんわりと丁寧に起毛させることができます。この昔ながらの工程によって、波打つような独特のウェーブ感と美しい艶が生まれます。私自身、ピアチェンツァのカシミヤビーバーのジャケットも所有していますが、今回の生地はシルクが51%入っていることもあり、カシミヤ100%のビーバー仕上げとはまた違ったベルベットを思わせる独特の起毛感があります。この仕上がりはジャケットとして形になって初めて実感できた嬉しい発見でした。
着用して感じた軽さと仕立ての工夫
これまで秋冬のピアチェンツァのカシミヤコレクション(コート生地を除く)は、320g、300g、そして180gといったラインナップでした。今回の生地は目付250g。秋冬のカシミヤジャケット生地としては軽量な部類に入ります。この生地本来の特性を最大限に活かすため、今回の仕立てでは保形性を保ちつつ、軽く柔らかく仕上がるよう芯地に特殊な加工を施しました。実際に出来上がったジャケットに袖を通してみると抜群に軽い。そして、軽やかな着心地でありながら、カシミヤならではの暖かさはしっかりと実感できます。「この軽さでこの暖かさ」という良い意味でのギャップに自分自身とても惹かれました。生地の特性をしっかりと理解し、それを活かした仕立てができたと実感しています。
保形性を保ちつつ、軽やかに仕立てるということ
ジャケットを仕立てる際、襟から前身頃にかけて芯地(しんじ)を入れるのが一般的です。芯地を入れる主な目的は服に美しい立体感を出し、型崩れを防ぐ(保形する)ことにあります。昨今はカジュアル化の流れもあり、芯地を使わない「芯なしジャケット」が多く見られるようになりました。私自身も芯なしジャケットを愛用しており、あの軽快な着心地はとても魅力的です。ただ今回のジャケットは、アット ヴァンヌッチのタイと合わせることを前提にしていたため、ある程度きちんと感のある「ドレス感」が必要でした。そこで今回取り入れたのが、当店で通常使っているソフト毛芯に特殊な加工を施し、さらに薄く仕上げるという手法です。もともと当店で使用している毛芯も十分に薄く柔らかいものですが、それをさらに薄く加工することでジャケットとしての立体感と保形性をしっかりと保ちながら、より軽くしなやかな着心地を実現しました。仕上がりの写真をご覧いただくと、胸回りに自然な立体感がありながら、フロントから裾にかけて柔らかで綺麗なロールを描いているのをお分かりいただけると思います。
淡いトーンでまとめた私なりのジャケットスタイル

今回の仕立てのきっかけとなったアット ヴァンヌッチのウールセッテピエゲを合わせたスタイルです。全体を淡いトーンでまとめるコーディネートをイメージしていたので、シャツは当店で取り扱いのある蝶矢シャツのアトリエメイドのグレーストライプ、パンツはミディアムグレーのウールスラックスを合わせています。ジャケットのブラウン、シャツの薄いグレー、キャメルカラーのウールタイ、淡い色でVゾーンをまとめました。あまりコントラストを付けず優しい色のつながりでコーディネートすることで、ジャケットの優雅な雰囲気が引き立つように意識しています。
足元に合わせたスエードローファー
足元はスエードローファーを合わせています。一般的なダークブラウンに比べ少し薄めの色合いなので、淡い色でまとめたナチュラルなコーディネートに馴染みます。このローファーはジョーワークスの既製ラインで展開しているもので踵の芯をなくしたモデルです。踵の芯がないのでリラックスした履き心地が味わえるだけでなく、ほどよいドレス感も残してあるので、タイドアップのジャケットスタイルにも良く合います。この他、スエードのブラック、バッファローのブラックと色と素材違いで3足愛用している私のお気に入りです。
「普通なんだけど、なんかお洒落」と思える絶妙な空気感
ネクタイを起点に全体のコントラストを抑えたナチュラルなスタイリングをイメージして仕立てた今回のジャケット。仕事柄、これまで本当にさまざまな洋服を着てきましたが、年齢を重ねた今、自分自身にとって一番しっくりくるのは、奇をてらわないシンプルで上品なスタイルです。だからこそ、素材感や仕立てから生まれる柔らかな表情、そして細やかな色合わせにこだわり、「普通なんだけど、なんかお洒落」と思えるような絶妙な空気感を楽しみたいと思っています。
シンプルで上品なスタイルを楽しみたいとお考えの方にとって、このピアチェンツァのシルクカシミヤジャケットは、長く付き合っていける良き相棒になってくれるはずです。 店頭には、生地ブックだけでなく私が実際にオーダーしたジャケット見本も展示しています。ぜひ一度手にとって、その軽やかな風合いや柔らかな仕立てをお確かめください。 ご質問やご来店のご予約なども、どうぞお気軽にお問い合わせください。















