フルブローグ、セミブローグ、ストレートチップなど、革靴には様々なデザインがあります。デザインの名前は聞いたことがあってもそれぞれの違いについては分かり難い部分もあると思います。ここではフルブローグとセミブローグの違いを例にそれぞれのデザインの特徴や種類、利用シーンや選ぶ際の基準についてお話しさせて頂きます。
フルブローグとは
ウイングチップに穴飾りを施したデザインの革靴のこと。ウイングチップとはつま先に「W」のような切り替えがあるデザインで、靴全体にメダリオンやパーフォレーション、ピンキング(ギザギザの切り替え)といった装飾が施されているのがフルブローグの特徴です。
因みに穴飾りは、「メダリオン」「パーフォレーション」「ブローグ」などと呼ばれたりしていますが、分かり難い部分もあるので、ここで整理しておきたいと思います。先ずメダリオンですが、これはつま先にある小さな穴で表現された模様のことです。元々は通気性や水はけを良くするためにあけられた穴で、当時の靴職人たちがデザイン性のある模様を考案したと言われています。そのメダリオン以外の大小の穴飾りがパーフォレーションで日本では親子穴とも言われます。そして、メダリオンやパーフォレーションが施された靴のことをブローグと呼びます。
フルブローグの基本デザイン
フルブローグの革靴の基本デザインを当店でオーダー頂いたJOE WORKSのフルブローグの仕上がり事例動画を交えてご紹介いたします。フルブローグの特徴的なデザインはウイングチップと靴全体に施されたメダリオン、パーフォレーション、ピンキングです。以下、それぞれの特徴についてお話しさせて頂きます。
ウイングチップ
ハンティングブーツをルーツとするウイングチップは、元々は水の侵入を防ぎ水はけを良くするために考案されたデザインと言われています。機能性を考慮したデザインですが、現代ではデザイン的な意味合いで採用されています。「ウィングチップ」はアメリカでの呼び名であり、英国ではウイングチップシューズの総称として「フルブローグ」と呼ぶことが多いとされています。
メダリオンやパーフォレーション
ハンティングなどを楽しむ湿地帯などは靴が濡れやすいため、メダリオンやパーフォレーションが考案されたようです。穴飾りには、雨水を穴の中に入れ靴全体に広がることを防ぐ役割と通気性を高める目的があったとされています。また、靴クリームを穴の中に入れることで水を弾く役割を果たしたとも言われています。ウイングチップ同様に現代ではデザイン的な要素が強い装飾として採用されている場合が殆どです。
ピンキング
フルブローグの特徴的な意匠のひとつがピンキングです。ピンキングとはウイングチップの「W」や踵などの革の継ぎ目の断面をギザギザ形状にカットして装飾を施すことです。伝統的な意匠のひとつですが、現代ではピンキングを配したスッキリしたデザインのフルブローグも多くなっています。当店で取り扱いのあるオーダーシューズ、JOE WORKSのフルブローグもピンキングのないプレーンなデザインです。
フルブローグの種類
フルブローグには内羽根と外羽根の両方のデザインがあります。当店でオーダー頂いたJOE WORKSのフルブローグの仕上がり事例を元にフルブローグのデザインを3種類ご紹介します。
内羽根フルブローグ
内羽根とは甲と羽根(シューレースを通す付近)が一体化しているデザインです。スッキリした見た目でドレスシューズの王道デザインです。内羽根のフルブローグはスーツからジャケットまでビジネススタイルに幅広く活用できます。
外羽根フルブローグ(ロングウイング)
オールデンなどのアメリカのシューズメーカーに見られるウイングが踵まで伸びたロングウイング。ネイビーブレザーにデニムやチノなどを合わせたカジュアルなアメリカントラッドな装いと好相性です。これを現代的に着こなすなら、プリーツ入りのゆったりシルエットのウールスラックスにジャケットを合わせてドレッシーに装うのもおすすめです。
イミテーションフルブローグ
一般的なフルブローグはウイングチップの「w」のところと踵は革を重ねて別パーツで作りますが、イミテーションフルブローグはその切り替えをステッチで表現したデザインです。カントリーなテイストが和らぎドレッシーな雰囲気が強まります。スーツ・ジャケットどちらのスタイルにでも合わせられますが、個人的にはスーツの足元の控えめなアクセントとして合わせるのがおすすめです。
フルブローグシューズの利用シーン
フルブローグには内羽根と外羽根の両方のデザインがあります。内羽根のフルブローグはスーツやジャケットのビジネススタイルに幅広く活用できます。クラシカルなフランネルスーツや上質なネイビージャケットスタイルの足元に華を添えるのもおすすめです。外羽根のフルブローグ(ロングウイング)は前述のようにプリーツ入りのゆったりシルエットのウールスラックスにジャケットを合わせるドレススタイルの他、レザーライダースにウールスラックスを合わせる上品なカジュアルスタイルの足元にもおすすめです。内羽根・外羽根とも、冠婚葬祭には不向きであることはご承知おきください。
セミブローグとは
ストレートチップに一文字の穴飾りが施されたデザインの革靴のこと。この穴飾りは湿地帯を歩く際の水はけをよくするために生まれたカントリーシューズ発祥の意匠と言われています。セミブローグの歴史は古く、1937年にイギリスのジョンロブが開発して、現在に至ると言われています。
フルブローグとセミブローグの一番の違いはトゥ(つま先)のデザインです。フルブローグはウイングチップがベースなのに対し、セミブローグはストレートチップがベースです。メダリオンやパーフォレーションなどの装飾は共通点が多いので一見すると違いが分かり難いと感じるかもしれませんが、つま先のデザインを見ることで容易に違いが確認できます。
セミブローグの基本デザイン
セミブローグの革靴の基本デザインを当店でオーダー頂いたJOE WORKSのセミブローグの仕上がり事例動画を交えてご紹介いたします。セミブローグの特徴的なデザインはつま先のメダリオンとストレートチップに配された一文字の穴飾り、そしてパーフォレーションの入り方です。以下、それぞれの特徴についてお話しさせて頂きます。
ストレートチップの穴飾りとメダリオン
セミブローグはストレートチップ(キャップトゥ)がベースです。つま先の切り替え部分に一文字の穴飾りとメダリオンを施したデザインです。ウイングチップがベースのフルブローグよりも装飾が控えめでドレッシーな雰囲気があります。
パーフォレーションの入り方
セミブローグの革靴は、基本的にはシューレースや履き口周辺、踵にパーフォレーションが入ります。ですが、この辺りはブランドごとに様々なデザインがあり、履き口は装飾なしで踵にパーフォレーションが入ったものもあります。当店で取り扱いのあるオーダーシューズ、JOE WORKSのセミブローグは履き口周辺と踵はパーフォレーションがないデザインです。装飾が少ないほどクラシックな雰囲気になります。
セミブローグの種類
セミブローグには内羽根と外羽根の両方のデザインがあります。またメダリオンの有無によって呼び方が変わります。当店でオーダー頂いたJOE WORKSのセミブローグの仕上がり事例を元にご紹介します。
内羽根セミブローグ
内羽根とは甲と羽根(シューレースを通す付近)が一体化しているドレスシューズの王道デザインです。フルブローグに比べると装飾の少ない内羽根のセミブローグはドレッシーな雰囲気ゆえ、スーツからジャケットまでビジネススタイルに幅広く活用できます。
外羽根セミブローグ
内羽根に比べるとカジュアルな外羽根のセミブローグは、ビジネスにおいてはスーツよりもジャケットスタイルと相性が良いデザインです。カジュアルならデニムやチノの他、フランネルやツイードなど素材感のある洋服と好相性です。
クオーターブローグ
つま先のメダリオンがないセミブローグを「クオーターブローグ」と言います。内羽根・外羽根を問わず見られるデザインで装飾が少ない分、スッキリした都会的な雰囲気を持つデザインです。厳密にはセミブローグと区分けされていますが、似通ったデザインなのでここではセミブローグの種類としてご紹介します。
セミブローグの利用シーン
フルブローグよりも装飾が少ないセミブローグは、スーツ、ジャケット問わず、ビジネススタイルに幅広く合わせられます。パーフォレーションはカントリーが起源の意匠なのでブリティッシュなスタイルと親和性が高いのは勿論ですが、艶とドレープのあるイタリア生地を用いた柔らかな仕立てのスーツやジャケットとも好相性です。シンプルなストレートチップ(キャップトゥ)をお持ちで、ビジネススタイルに幅広く合わせられる靴をお探しの方にはおすすめのデザインです。尚、セミブローグは装飾性があるので、冠婚葬祭のようなフォーマルな場面でのご着用はお控えください。
フルブローグとセミブローグを選ぶ基準
セミブローグとフルブローグを比較した場合、セミブローグの方が装飾が少ないのでドレッシーであると言えます。とは言え、セミブローグとフルブローグはどちらもビジネススタイルで幅広く活用することができます。あえて比べるのなら、個人的には装飾の少ないセミブローグの方がコーディネートの振り幅が広いように感じます。フルブローグの場合はスーツやジャケットの個性が強いと「盛りすぎ」の感があるので、その辺りのバランスを考えた方が良いと思います。足元のさり気ない変化を楽しみたい場合はセミブローグを、個性的なスタイルを楽しみたい場合はフルブローグを選択し、使い分けて楽しむのもおすすめです。