私が自分用にオーダーしたナイロンコートをご紹介させていただきます。私は毎シーズン膨大な数の服地を生地メーカーさんからご提案いただきます。その中から自分好みの生地を見つけるために実際に生地に触れながら質感や肌触りを確認し、仕立て上がりを想像しながら生地を選んでいます。今回私は立体感のあるナイロンコートを作りたいと思いそれに合う生地を探し、新たなディテールを取り入れたコートにチャレンジしました。仕上がりのご紹介の他、生地選びからディテールまで、私がどんなことを考えてオーダーしたのかをお話しさせていただきます。
コートに立体感を与えるLIMONTA(リモンタ)のナイロンワッシャー
私は以前にも、ナイロンのラグランスリーブのコートをオーダーしたことがあります。そのコートはとても軽くてシワにもなりにくく、お気に入りの一着として今でも愛用していますが、もう少しボリューム感のあるナイロンコートが欲しくなりました。メーカーさんにご協力いただき、6種類10色のナイロン生地のサンプルをご用意いただきました。ストレッチ、シャンブレー、ソフトタッチなど様々な特徴を持つ素材の中から私が選んだ生地はイタリアの老舗合繊メーカーLIMONTA(リモンタ)社のナイロンワッシャー素材です。ワッシャーとは生地にシワを表現する特殊な加工です。特有の膨らみ感があるので、私がイメージするボリューム感のあるナイロンコートにはピッタリです。
色は最初からグレーに決めていました。ビスポークで作ったグレースーツ、カバートクロスのダブルのグレースーツ、春夏用にオーダーしたストライプのライトグレーのスーツに合わせて、グレーのワントーンコーデを楽しみたいと考えていました。
私が自分用にオーダーしたナイロンのラグランスリーブコート
仕上がりを見た瞬間、思わず「お~!」と唸ってしまいました。ナイロンコートの軽快さがありつつ立体的で、とても高級感があります。特に袖の膨らみ感や襟からフロントボタン周りにかけてふんわりと柔らかな曲線はイメージ通りの仕上がりです。グレーの色合いも薄すぎずいい塩梅で手持ちのグレースーツに合わせやすくヘビロテで活躍しそうです!私が欲しかったのは正にこんな感じのコートです。春先や秋口など季節の変わり目に羽織るコートなので軽快に見えるように着丈はやや短めにしました。
私のこだわり
ワッシャーナイロンの膨らみ感を最大限に活かして立体的なコートにする為、仕立てとディテールに工夫を凝らしました。裏地を一切使わないようにしたり、襟裏の素材を替えたりなど、今まで作成事例のない仕様にチャレンジしました。正直なところどんな感じで仕上がるかは全く想像できませんでしたが、それ故、いつも以上にワクワクした気持ちでオーダーできました。ここからは自分用のナイロンコートをオーダーした際の拘りポイントについてお話しさせていただきます。
無双仕立て
通常のコートは内側に裏地が付きますが、今回は裏地は用いずコートの内側全面と袖の内側に表生地と同じナイロンを使用しました。これは『無双仕立て』といわれる手法で表と裏を同じ生地で仕立てる方法です。ナイロンコートは軽快感が魅力ですが、生地が薄く軽い分、立体感が出しにくい素材でもあります。ですので、コートの表裏に表生地のナイロンを使用する無双仕立てにすることでナイロンの軽快感を残しつつ、フワッとした立体的なシルエットのコートに仕上げました。
無双仕立てにすると通常の倍の生地が必要になります。ウール生地でこの仕立てにするとかなり重いコートになるので、そういった素材の場合は現実的な仕立て方ではないかもしれません。ですが、私がセレクトしたリモンタのナイロンワッシャーは118gと超軽量なので、表裏にナイロンを使用してもかなり軽いコートに仕上がりました。初めてチャレンジした仕立てですが、想像以上にイイ感じに仕上がり大満足です!
襟裏スエード
襟裏にはフェイクスエードを使用しました。私が持っているナイロンコートは薄い素材なのでコートの襟を立てて着た場合、気が付くと襟が寝ているということがありました。そういったことを防ぐ為、今回は襟裏にフェイクスエードを使用し、キレイに襟が立つようにしました。実用面の他、襟を立てた時にフェイクスエードが見えるのもさり気ないお洒落の楽しみ方として個人的には好きです。
パッカブル
ナイロンコートが活躍する春先や秋口は、朝晩は肌寒いけど日中は暖かいといったように、1日の中の気温の変化が大きい季節です。真冬とは違いコートの脱ぎ着する機会が多い時期なので、コンパクトに畳んで鞄の中に携帯できるのが一番便利だと思いました。それが可能になるようにコートと同じ生地で収納用のポーチを作りました。このパッカブル仕様も初めてのチャレンジでしたが、自分の好きな生地で好きな大きさの収納用ポーチをコートと一緒にオーダーできるのはとても楽しかったです。
そして、パッカブルコートをオーダーしようと思った時、畳んだ時のシワについても考えました。そのことも踏まえて選んだのが今回のリモンタのナイロンワッシャーです。もともとワッシャーをかけてシワ加工がしてある生地なので畳みシワができても目立ちにくく、ほとんど気になりません。シワになりにくい生地を選ぶのではなく、もともとシワが入っている生地を選ぶという逆転の発想で生地をセレクトしました。
パッカブルコートの畳み方
コーディネート
続いては私が実践しているコーディネートをご紹介させていただきます。先述しましたが、私はこのコートをオーダーする際、初めから手持ちのグレースーツに合わせて楽しみたいと考えていました。オーソドックスなスーツスタイルにナイロンコートを1点投入してコートとスーツの双方が引き立つようなスタイルを意識しています。コーディネートは人それぞれですが、一例として私の楽しみ方をお話しさせていただきます。
ナイロンコート×カバートクロスのダブル6ボタン段返りスーツ
クラシカルなカバートクロスのダブル6ボタン段返りスーツに軽快なナイロンコートを合わせたスタイリングです。この手のクラシックなスーツの春秋アウターとしてはコットンのラグランスリーブコートやトレンチコートを合わせるのもありですが、個人的には軽快でモダンなテイストが好みなのでナイロンコートを合わせたいと考えていました。クラシックなスーツとモダンで軽快なコート、異なるテイストのアイテムを組み合わせると双方の良さが引き立つと思いますがどうでしょうか?使う色も極力少なくしてシンプルな着こなしを楽しみたいですね!
無双仕立てのナイロンコートを着て感じたこと
このコートをオーダーしてみて私が一番感じたことは、立体的な仕上がりによる圧倒的な高級感です。ウールのような重厚な立体感ではなく、「ナイロンアウターの軽妙洒脱な雰囲気にふんわりとしたエアリーな立体感が加わった」そんなイメージです。実際に袖を通してみると、体から離れてコートが浮いているような今まで味わったことのない不思議な感覚です。
その他、ディテールについて感じたことがあります。今回、私はウエストをベルトで絞れるベルテッドコートにしましたが、実際に着てみると膝上ぐらいの着丈だと着丈が短い分、ベルテッド特有のシルエットの変化が出しにくいように感じました。今回の場合なら、ベルトで絞らず緩めのシルエットで着た方がリラックス感や軽快さが楽しめると思いました。ですので、「ベルテッドにしなくてもよかったかな。」というのが私の感想です。
今回も楽しくオーダーすることができました
私が自分用に仕立てたナイロンコートをご紹介させていただきましたが楽しくご覧いただけましたでしょうか。私は普段お客様にご紹介することが多い立場ですが、自分用にオーダーをする時はお客様と同様に生地から仕立ての方法やデザインまでを色々と考えます。その他、新たな仕様やデザイン、適切なサイズ感などをお客様にご紹介する前にまず自分で試しています。今回は新たなチャレンジとして『無双仕立て』と『パッカブル』、『襟裏スエード使い』にトライしました。実際にオーダーするとなると、どんな生地が適しているのか、着丈の設定はどうしようか、収納用のポーチの大きさやデザインはどうするのか、スエード生地の厚みはどのくらいが適切なのかなど、色々なことを考える必要があります。前例がないだけに悩みに悩んで決めました。実際にオーダーいただく際、きっとお客様も私と同じことでお悩みになると思います。そんな時に自分自身がそれを経験していれば適切なご案内ができると考えています。ですので、これからもたくさん作ります!(笑)
パッカブルのナイロンコートは既製品でも見られますが、立体的な無双仕立てとなるとほとんど見かけることはないと思います。そして、パッカブルのコートをオーダーできるのも珍しいと思います。もし、少しでもご興味をお持ちいただけましたら、是非実際に店頭のサンプルに袖を通してみてください。きっと今までに体感したことがない不思議な着心地に感動していただけると思います。生地に関するご質問やご相談、サンプルの下見も喜んで受けさせていただきます。気になる点がございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。
100% ナイロン 118g/m