遡ること一年前、当店で毎シーズンスーツやジャケットをオーダーくださっているI様からコートのご相談をいただきました。その内容は、「コートを何着も持っているけど着る機会が少なくて活用できていない」ということでした。車関係の会社を経営していらっしゃることもあり、お仕事柄、車移動が多いので長時間外を歩く機会が少ないのがコートを活用できていない理由でした。
とは言え、冬場にコートなしで外出すると見た目に寒々しいし、ファッション的にもスマートではないので外出時にはコートはお召しになります。しかし、車の乗り降りの際に脱ぎ着するのも大変なので近距離なら羽織らずに手に持って移動したりすることもあるようです。そうすると、今度は手に持ったコートが嵩張るので煩わしさを感じていらっしゃるとお聞きしました。
この時はコートのオーダーをご検討ではなかったのでお話はここまででしたが、私の心の中にはずっとこのことが残っていました。そこで、当店にお越しのお客様に「冬場にコートを活用できているか」をヒアリングさせていただいたところ、I様と同じような理由でコートを活用できていない方が多くいらっしゃることが分かりました。
その後、半年以上かけて、I様をイメージして、どんなコートならお楽しみいただけるのかを考えた結果、 フランネルのスーツ生地で作成したチェスターコートのサンプルを作成しました。防寒を主な目的としない冬のファッションアイテムとしてお召しいただくコートです。ご相談から一年後、I様に店頭でコートサンプルをご覧いただきご興味をお持ちいただけてフランネルのスーツ生地でダブルのチェスターコートをオーダーいただきました。
お選びの生地
I様のご要望は「分厚いコートは着る機会がないから、ジャケット感覚でサッと羽織れるものをオーダーで作りたい」というもの。車移動が多いので防寒性よりも軽さや取り回しの良さを重視したいということでした。ご予算を\250,000前後でご検討いただき、ご案内した生地はウールにカシミアを10%ブレンドした290gのスーツ用ソフトフランネル。混率以上にカシミアの風合いを感じることができるリッチな生地です。一般的なコート生地の目付けは550g前後からが多く、それらには防寒性ではかないませんが、その分、圧倒的に軽いことをご説明させていただきました。ファッションが大好きで、ボリオリ、サルトリオ、フライ、バルバなどもお召しのI様がお選びになったのはライトグレー。カシミア混による上品な色出しが魅力で、ブルネロクチネリのようなリッチな雰囲気があります。旬なカラーをお選びになる審美眼は流石です。
チェスターコート完成
オーダーいただいたデザインはダブルのチェスターフィールドコートです。290gのソフトフランネルの軽快感をより一層お楽しみいただけるよう、芯地や肩パッドなどの副資材を排したスポルベリーノでお仕立ていただきました。フロントボタンを止めずに羽織った時に現れるドレープは見るからに軽やかでガウンを羽織るような優雅な雰囲気を醸し出します。フロントボタンを止めた時もリラックスして見えます。
スポルベリーノの場合、襟の芯地も排して軽やかさと寛ぎ感を表現します。ピークドラペルの場合、襟芯がないとした襟が垂れ下がってきてしまいます。ピークドラペルの精悍な顔つきとスポルベリーノのリラックス感をともに引き出す為、上襟と下襟を千鳥掛けしてお作りさせていただきました。
コートの袖付けにもマニカカミーチャを採用。着心地は勿論、タレ綿のないリラックスした肩回りの表情は見た目にも軽快です。
クラシックな艶なしホーンボタンかモダンなメタルボタンにするかかなり迷っていらっしゃいました。ライトグレーのコートにシルバーのメタルボタンの組み合わせはクラシックながらモダンでファッショナブルですね。どこかタリアトーレのような雰囲気も感じます。
コートと一緒にオーダーいただいたハウンドトゥースのジャケットとのコーディネートもスタイリッシュです。ライトグレーのコートはベージュなどの淡いトーンで合わせるとリッチな雰囲気ですが、都会的なスタイルならI様のようなモノトーンスタイルもいいですね!
仕上がりご着用
仕上がりをご試着いただいた際、「めちゃめちゃ軽い!着ていないみたい!」と驚いていらっしゃいました。「これジャケットよりも軽いね!これならサクッと羽織れる。こういうのが欲しかった!」そう仰っていただけました。軽快感と取り回しの良さを考慮してやや短めに設定した着丈もI様のイメージ通りで、ドレスカジュアル問わず幅広くお使いいただけそうです。
I様、今回もありがとうございました。昨今の気候を考えるとむしろこのぐらいのライトウエイトのコートの方がお使いいただきやすいかもしれませんね!末永く御愛用いただける一着になれば幸いです。