当店では2023年秋冬シーズンからトレンチコートのオーダーを開始します。実は、トレンチコートのオーダーに対応できるテーラーは全国的にも少ないのが現状です。トレンチコートはデザインが特殊でパーツ数も多いので、通常のコートよりも製作するのに手間と時間を要するというのがその理由です。特にオーダーメイドの場合、一着ずつサイズや仕様が異なるので生産効率の面から、通常の生産ラインで製造することが難しくなります。そのため、オーダーメイドの場合は、トレンチコート専門の職人さんがいらっしゃいます。しかし、トレンチコート専門の職人さんでも多くの着数は作れないので経営が安定せず、職人の数が年々減少傾向にあります。このような背景があるのでトレンチコートは圧倒的に既製品のシェアが高いのが実情です。既製品なら同じ仕様・サイズ・生地で一気に大量に作ることができるので、製作の手間暇がかかったとしても効率は良いですから。
トレンチコートというアイテムの実情は今お話しした通りで、このままでは、オーダーのトレンチコートは、もしかしたら将来的に作れなくなってしまうかもしれません。でも、それではあまりにも勿体ないと思います。当店でもこだわりをお持ちのお客様からトレンチコートのオーダーについてお問い合わせをいただいています。私としても、そういったご要望に何とかお応えしたいという想いがあります。そして、その為には、職人の技術を後世に伝えることが大切です。そんな想いから、当店でもトレンチコートのオーダーをスタートすることにしました。微力ながらお役に立てれば幸いです。
トレンチコートとは
トレンチコートは第一次世界大戦中、イギリス軍がヨーロッパの寒冷地での戦いに耐えうる防水性のあるコートをリクエストしたことから開発されたと言われています。トレンチコートの「トレンチ」とは「塹壕」のこと。塹壕とは、戦争時に身を守るために掘る穴のことで、そのような泥深い環境で着られていたことから「トレンチコート」と呼ばれるようになったとされています。実用性と機能性に優れているため、その後、タウンユースとして一般へ広がっていきました。トレンチコートに用いられる素材はコットンギャバジンが定番です。元々はバーバリー社が開発した生地で、高密度で織り上げた撥水性と耐久性に優れているのでトレンチコートには最適です。こういったことから、「トレンチコートと言えばバーバリー」と言われるようになったのかもしれませんね。
時代の空気を滲ませたトレンチコートをオーダーメイドで
1900年ごろにはその原型が考案されたとされるトレンチコートは100年以上の歴史があります。 当店のオーダートレンチコートは、伝統的な雰囲気を踏襲しつつ、当時とは異なる素材感やディテールを現代の目線で再現したスタイルが特徴です。そして、何といってもシルエットや着丈を自由に調整し、時代の空気を反映できるのがオーダーの魅力です。 現代の装いに合うモダンなトレンチコートをご案内させて頂きます。
トレンチコートの着丈について
好みの着丈に設定できるのもトレンチコートをオーダーする醍醐味のひとつです。初期型と言われる1915年当時のトレンチコートの着丈は膝下まで隠れるロング丈でした。当時のようなロング丈を踏襲してクラシックに装うのも良いですし、膝上から太腿ぐらいまでのハーフ丈やミドル丈で軽快に装うのもモダンです。また、レディースのトレンチコートに見られるようなショート丈のトレンチコートというのも現代ではあります。当店ではショート丈からロング丈まで幅広く対応可能です。ショート丈のトレンチコートは、フェミニンな印象が強くなるので大人の男性にはミドル丈ぐらいまでがおすすめです。
トレンチコートの初期モデルを再現した袖付け
当店のオーダートレンチコートの袖付けは通常のジャケット同様のセットインスリーブを採用しております。現代まで受け継がれてきているトレンチコートはラグランスリーブが多いですが、当店のトレンチコートの製作をお願いしている職人さんから「トレンチコートの初期モデルはセットインスリーブだったという説もある」ということを教えてもらいました。王道はラグランスリーブかもしれませんが、トレンチコートをオーダーする楽しみのひとつとしてオリジンの雰囲気をお楽しみ頂けるセットインスリーブを採用しております。
ドロップショルダーと思いきや、実はセットインスリーブという意外性
適度なオーバーサイズで仕上げると、「一見、ドロップショルダーっぽいですが、実はセットインスリーブ」という意外性のある着こなしをお楽しみ頂くことができます。やや大きめのサイズ感でウエストをベルトで締めて膨らみ感のあるシルエットでお召し頂くのも新鮮です。トレンチコートの新しい着こなしとして取り入れてみてはいかがでしょうか。サイズ感を細かく設定いただけるのもオーダーならではの楽しみ方です。
スッキリ仕上げたエポレット
肩に付けられたベルト状のパーツを「エポレット」と言います。エポレットはミリタリーウエアの象徴的なディテールですが、もともとは 将校の階級や地位を表すバッチを付ける為の場所でした。また双眼鏡などのストラップを通して固定する役割も担っていました。伝統的にはループを通してボタンで留めるディテールですが、エポレットは肩のラインを強調するディテールなので、当店ではあえてループを無くしてスッキリした印象に仕上げています。
※エポレットの有無は体型やお好みに合わせてお選び頂けます。
軍服の名残を感じるガンフラップ
トレンチコートの代表的なディテールが胸元のガンフラップです。戦場で銃を発砲した時の衝撃を和らげる目的で付けられました。また、襟のボタンを上まで留めると雨の侵入を防ぐ役割も担っています。現代では必要とされない機能なので省略された製品もありますが、当店のオーダートレンチコートでは、軍服としての名残を残すディテールとして採用しています。
水滴が落ちるように設計されたアンブレラヨーク
トレンチコートは肩から背の上部にかけて二重構造になっています。この部分をアンブレラヨークと言い、防水の役割を果たしています。ご覧のようにケープ状のデザインなのでヨークの傾斜を伝って水滴が下に落ちるように設計されています。雨の中、傘を差さずに歩くことはないでしょうが、こういった機能を備えていると思うと、雨の日も安心してお召し頂くことができると思います。レインコート代わりにお召し頂くのもお洒落ですね!
雨風の侵入を防ぐスリーブストラップ
袖口にはストラップが装着されています。雨風の侵入を防ぐトレンチコートらしいディテールです。現代のタウンユースでは使う機会が少ないディテールですが、トレンチコートのオリジンを感じるディテールです。風が冷たい日の外出時に便利な機能ですね。
※スリーブストラップの有無はお好みでお選び頂けます。
トレンチコートにおすすめの生地のご紹介
私がセレクトしたのはイタリアのOLMETEX(オルメテックス)のコットンギャバジンです。60/2コットンをタテ・ヨコ高密度に織り上げ、ハリコシと共に撥水性が備わっています。ご覧のように生地に水滴を垂らしても染み込まず、生地の上を滑るように水滴が走ります。トレンチコートの様々な機能と組み合わせれば少々の雨ならレインコート代わりにお召し頂けます。ヴィンテージな雰囲気と経年変化まで楽しめる生地で、バーバリーのコートにも使用されています。ヴィンテージバーバリーのトレンチコートのような味わい深さを備えたオーダーメイドコートがお作り頂けます。
ミリタリーが由来のトレンチコートは骨太なのにエレガントに着こなせるのが魅力です。男らしくも上品で、機能性を考慮したデザインゆえ、いつまでも色褪せることなくお召し頂けるアイテムです。世の中に流通している多くが既製品というアイテムゆえ、生地やサイズ感、着丈にこだわって、トレンチコートをオーダーしてみるのはいかがでしょうか。ご質問などございましたら、メール若しくはお電話でお気軽にお問い合わせくださいませ。