
今シーズン自分用に仕立てたのは、英国「ダグデール・ブラザーズ」の『イングリッシュ クラシックス』。ウール100%、目付け400gのしっかりとした生地です。今回は、この生地で仕立てたダブルブレストスーツの出来栄えと、実際に袖を通して感じた着心地やシルエットのレビューをお届けします。
私は100着以上のスーツやジャケットを持っていますが、その9割以上はイタリア生地。イタリア生地ならではの柔らかで艶やかな風合い、そして洗練された色柄は今でも大好きです。ただ、ひと通り様々な服を着てきた今、ふと「普遍的でクラシックなもの」に立ち返りたい気持ちが強くなっていました。そうはいっても、根がイタリア生地好きの私にとって、英国の「ゴリゴリに硬くて重いクラシック生地」は正直少し苦手意識がありました。
そんな私がここ最近、急激に惹かれているのがダグデールです。スーツ好きの方にはお馴染みですが、ダグデールは100年以上の歴史を持つ英国の老舗生地メーカー。 実は数年前にもコレクションを見る機会があったのですが、その時はあまりピンときませんでした。それが去年の年末ごろ、メーカーの方に紹介されて久しぶりにコレクションを見たら、すごく良かったんです。 英国らしいクラシックな雰囲気はありつつ、色柄がモダンで風合いも硬すぎない。トレンドは追わないけれど、今の空気感は持っていたい自分にとって、ちょうどいい塩梅でした。 後日、同業の知人と何気なく「最近ダグデール良いよね」という話になった際、理由が判明しました。どうやら元々マーリング&エバンスにいたテキスタイルデザイナーが、ダグデールに移籍していたとのこと。あの独特のモダンで柔和な質感の理由が分かり、「だからイタリア好きの自分にもしっくり来たんだな」と納得しました。
イタリア好きの私が選んだ無骨で男らしい生地

- 素材・目付け:ウール100% / 400g
- 織り:双糸(タテヨコ2プライ)でしっかり打ち込まれた組織
この「イングリッシュ クラシックス」最大の特徴は男らしく無骨でドライな質感です。イタリア生地特有の滑らかさや艶(ぬめり感)も大好きですが、その対極にあるような質感。1950年代のビスポーク全盛期を彷彿とさせる、ウールの油が抜けたような手触りで、糸目が詰まったクラシックな表情に仕上げられています。とはいえ、ゴリゴリに硬いわけではありません。しっかりとしたコシの中に、どこかしなやかな柔らかさがあるんです。生地に触れた瞬間、「この生地をあえて軽やかなナポリ風の仕立てにしたら、すごく色気が出そうだな」と直感しました。柄はグレンチェックやヘリンボーンも考えましたが、ありそうでない、チャコールグレーベースのダブルストライプを選びました。
【着用レビュー】「軽やかなナポリ風仕立て」で袖を通してわかったこと

スーツのデザインはダブル6ボタン。英国生地のストライプというと、ロンドンの金融街で働くビジネスマンのような凛とした印象が浮かびますが、私が目指したのは『ゴッドファーザー』の劇中に出てくるような、渋さの中に艶っぽさのあるナポリテイスト。まさに狙い通りの仕上がりで大満足です。早速、袖を通してみました。羽織った瞬間に感じたのは、「あ、少し重たかったかな?」ということ。しかし、数分着ているうちにその感覚はスーッと消えていきました。この生地は綾織り(ツイル)で織られているため、斜め方向への自然な伸縮性があります。そのため、400gという目付け以上の軽やかさがあり、着ていてストレスを感じません。また、今までと同じ寸法で仕立てたものの、生地に厚みがある分、最初はウエスト周りに少し突っ張り感がありました。ただ、これも着ているうちに生地が身体のラインに馴染んでいく感覚があります。オーダーでサイズや体型に合わせるのはもちろんですが、そこからさらに、生地が身体に馴染んでもう一段着やすくなっていく。この「スーツを育てる楽しみ」を試着した段階で実感できました。これから着込んでいくことで、どんな変化を見せてくれるのか今から楽しみです。
ボタンを外して見せるフロントラインの綺麗なカーブ


今回は目付け400gとしっかりハリコシのある生地なので芯地に特殊な加工を施し、より軽やかな着心地になるよう仕立てました。私はダブルのスーツを着る際、あえてフロントボタンを留めずに羽織ることが多いので、特にフロントラインのカーブには強いこだわりを持っています。元々、襟から前端にかけて立体的に立ち上がるよう型紙を起こしていますが、この生地はとにかくフロントのカーブが綺麗に弧を描いてくれます。通常よりも芯地を薄くしているにもかかわらず、生地自体にしっかりとした張力があるため、ボタンを外して着た時にも優美なラインをキープしてくれます。「英国生地の仕立て映え」と「軽やかなナポリ風の仕立て」が見事に噛み合った瞬間だなと感じました。
型紙についてのこだわりはこちらでご覧いただけます。
ダブルスーツの新型紙。オーダーだから追求できる着心地とシルエット
段返りの柔らかさとバストの美しい立体感


もちろん、フロントボタンを留めて着た時のシルエットも秀逸です。段返りのような柔らかで自然なラペルの返り具合がありながら、バストには適度な立体感とボリュームが生まれています。端正な表情の中に、ほのかな色気が漂うフォルムに仕上がりました。本来、芯地を薄くするとフロントの返りは柔らかくなりますが、バストのボリューム(立体感)は出にくくなります。しかしこのスーツでは、その相反する現象が見事に同居しています。これは生地自体のハリコシはもちろん、緻密な型紙と丁寧な仕立て技術、その全てが噛み合っているからこそ実現できた仕上がりだと実感しています。
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ダブルスーツの新型紙。オーダーだから追求できる着心地とシルエット
膝下をストレート風に太くする私流のワイドパンツの解釈

スラックスは、ほんのりゆとりのある上品なシルエットに仕上げました。世の中的にはワイドパンツが流行していますが、クラシックなスーツにおいては、そのままトレンドを取り入れるのではなく「大人らしい塩梅」がポイントになります。私は普段から2プリーツの少しゆとりを持たせたスラックスを愛用していますが、今回はワイドパンツの空気感を自分なりに解釈し、クラシックな装いに落とし込んでみました。具体的には、これまでの寸法よりヒザ幅を5mm、裾幅を7mm広げています。数字だけ見るとわずかな変化ですが、一周(ぐるり)の寸法で考えるとヒザで1cm、裾で1.4cm太くなるため、見た目の印象はしっかり変わります。一番のこだわりは、ヒップとワタリ(太もも)の寸法はあえて変えず、膝から下をストレート風に仕立てたことです。ヒップ周りやワタリまで太くするとカジュアル感が強くなりますが、膝下のラインだけを調整することで、クラシックな佇まいはそのままに、今の時代感に合ったモダンなエッセンスを添えることができます。上品さを損なわずにトレンドの気分を楽しみたい大人の方にお試しいただきたいシルエットの調整法です。
スーツを軽快に着こなす私のお気に入りスタイル


このスーツを仕立ててから、特にお気に入りなのが白シャツにアットヴァンヌッチのブラックペイズリータイを合わせたスタイリングです。シンプルな白シャツを間に挟むことで、スーツのストライプとネクタイの柄が互いを引き立て合い、存在感がありつつも上品なVゾーンが完成します。 選んだネクタイはシルク100%のプリントで、芯地を使わない「ソフィア」というモデル。アットヴァンヌッチといえばセッテピエゲが有名ですが、このソフィアも同様にふわっと軽やかで、ノットをキュッとコンパクトに締め込めるのが特徴です。スカーフのように軽快な質感だからこそ、タイドアップする際はあえて小剣を長めにのぞかせ、良い意味で完璧に整えすぎない「少し崩したこなれ感」を意識しています。「クラシックな英国生地を、軽やかなナポリスタイルのスーツに仕上げ、スカーフのようなタイで軽快に着こなす」。 これこそが、いま私が最もお気に入りのスーツの楽しみ方です。
イタリア好きの私がたどり着いたもう一つの選択肢

今回、初めてダグデールの「イングリッシュクラシックス」でスーツを仕立てましたが、一言で言うなら「大満足!」です。冒頭でもお話しした通り、私は基本的にはイタリアの色気のあるスタイルが好みです。ただ、年齢や経験を重ねていく中で「華やかな色気の中に、凛とした渋い雰囲気も取り入れてみたい」という想いも芽生えていました。とはいえ、重く硬すぎる風合いや、渋すぎる色柄の英国生地にはなかなか踏み出せずにいました。そんな中で出会えたのが、このダグデールの生地です。私が感じるダグデールの生地とこのスーツの一番の魅力は、「クラシック過ぎない」こと。英国特有の味わい深い枯れ感がありながら、イタリア生地に比べるとクラシックで、どこか軽やかでモダン。これこそが、私の求めていた「色気がありつつ、凛とした渋い雰囲気」を叶えてくれる理想の塩梅でした。また、本格的なハンドテーラリングやアイロンワークといった、テーラー技術の醍醐味を存分に引き出せるポテンシャルの高さも実感しました。次はぜひ、この生地でビスポークのスーツを仕立ててみたいとワクワクしています。
普段はイタリア生地や既製品を楽しんでいる方、英国生地がお好きな方、どちらの方にでも楽しんでいただけると思います。店頭には生地ブックの他、私が着用しているスーツのサンプルもご用意しています。是非一度実物をご覧いただきその魅力に触れてみてください!お問い合わせやご来店のご予約などは、お電話もしくはお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡くださいませ。














