2026年6月28日(日)、当店のビスポークおよびMTMスーツの制作をお願いしているアルデックス様より、スーツ職人の小島氏をお招きして「ビスポークオーダー会」を開催いたしました。当日は、ホームページをご覧になり初めて足を運んでくださったお客様や、これまでに当店でビスポークをお仕立ていただいている顧客様にお越しいただき、皆様と様々なお話を交えながらのたいへん楽しいオーダー会となりました。オーダー会自体は以前より開催しておりますが、今回のレポートを通じて、少しでも多くの方にビスポークならではの楽しさを感じていただければ幸いです。
当店がビスポークを取り扱う理由
当店ではMTM(メイド・トゥ・メジャー)のほか、スーツ、ジャケット、パンツ、コートのビスポークオーダーを承っています。当店のMTMは補正の自由度が高く、多くのお客様にご満足いただいています。それでもなお、なぜビスポークを取り扱うのか。 理由はシンプルで、「最高の着心地と、服作りの楽しさをお届けしたいから」です。
私自身、これまで自分用のスーツやジャケットをMTMで100着以上仕立ててきました。その仕上がりには十分満足しています。ただ、長年作っていく中で「ここをもう少しこうしてみたい」と思うことが出てきます。MTMで実現できることもあれば、構造上難しいこともありました。 そうしてもっと洋服への探究を深めたいと感じていた頃、職人の小島氏から「新しくビスポークのサービスを始めるので、一着作ってみませんか?」とお声がけをいただきました。 正直なところ、MTMに満足していたこともあり、最初はそこまでピンときていませんでした。しかし、せっかくの機会なので自分用に作ってみることにしたのです。
一人ひとりの体型に合わせて型紙を一から起こすビスポークには、決まった制約がありません。自分が理想とするスーツ像を、小島氏と対話しながら形にしていきました。「襟の形はこうしよう」「それなら返り位置はこの高さが良いですね」「ここはこういう縫い方にしましょう」といったやり取りの一つひとつが、自分の洋服への想いを形にしている実感があり、とにかく楽しかったのを覚えています。フィッティングでの感動も大きかったです。私は鎖骨や肩甲骨など、骨格が浮き出る体型をしています。ビスポークはそうした特徴を単に「補正で逃がす」のではなく、体型そのものに寄り添うように型紙を一から構築します。そのため、仕上がった時の体に吸い付くようなフィット感は別格でした。袖を通した瞬間、思わず「あ、めちゃくちゃ着やすい」と声が出たほどです。
MTMに親しんできた私にとっても、ビスポークの持つデザインの自由度や、手仕事から生まれる温もり、そして「服を仕立てる楽しさ」は特別なものでした。自分が味わったこの感動を、ぜひお客様にもご紹介したいと思っています。
T様
「ビスポークの相談をしたい」とホームページよりお問い合わせいただき、初めてご来店くださったT様。海外生活が長く、これまでは様々な店舗でMTMスーツを仕立ててこられたそうですが、これまでとは違う一着を求めて当店をお選びいただきました。オーダー会の前週にご来店いただき、じっくりとお話を伺いました。海外出張時の会食など、オンオフ問わず使える一着をご希望で、当初はリネンスーツをご検討されていました。しかし、「初めてのビスポーク」としての汎用性を考慮し、最終的にはネイビーのジャケットでお仕立てすることに。
お選びいただいたのは、ピアチェンツァの「アラシャンブリーズ」。カシミヤ・シルク・リネンの3者混で、目付けがわずか180gという圧倒的な軽さを誇る生地です。今回はこの軽さを最大限に活かすため、見返し(裏側)の仕様や芯地の据え方にビスポークならではの工夫を施しています。 ※生地の魅力や特別な仕立て仕様については、後日公開する個別コラムにて詳しくご紹介いたします。
採寸
バスト、ウエスト、ヒップといった基本部分に加え、背幅や前幅、前後の肩の高低差など、計20箇所におよぶ詳細な採寸を行いました。最後に、お客様のお体の起伏や肉付きの様子を手の感触で慎重に確かめ、それらのデータを基にT様専用の型紙を一から作成していきます。
E様親子
お父様のビスポークスーツの仕上がり
会社の創業周年パーティーに向け、親子でビスポークをご依頼くださったE様。今回はまず、お父様のスーツの仕上がりをご確認いただきました。デザインのベースとなったのは、映画『007』のボンドスーツ。歴代のディテールを紐解きながら、E様と対話を重ねてカタチにした一着です。シャープなラペルや構築的なショルダーラインを際立たせつつ、仕立て自体は軽やかに整えることで、現代的な快適さを備えた仕上がりとなりました。フィッティングの様子やこだわりのコーディネートについては、[こちらのコラム記事]で詳しくご紹介しております。
お父様のビスポークジャケット&パンツの仕上がり
オーダー会では、パーティー前日のレセプション用ジャケット&パンツも無事に納品となりました。先ほどの端正なボンドスタイルとは打って変わり、華やかさとリラックス感が同居する仕上がりに。英国調のドレッシーなスーツから一転、こちらは当店のハウススタイルである2面体パターンを活かし、ナポリの柔らかいニュアンスを色濃く反映させた一着です。フィッティングの様子やこだわりのコーディネートについては、[こちらのコラム記事]で詳しくご紹介しております。
お父様の中本縫い
パーティー用スーツの仮縫いの際、追加でご依頼いただいたストライプジャケットの中本縫いを行いました。袖を外して肩傾斜の具合を入念に確認。先行してお作りしているスーツとジャケットの状況をしっかり見定めたうえで制作をスタートさせています。先の2着で得たフィッティングデータを活かすことで、この3着目ではE様の体にさらに寄り添う、精度の高いフィット感を目指して本縫いを進めていきます。
併せて当日は、一点物である非常に希少なカシミヤ&ビキューナのスーツ生地をご覧いただきました。ここまでの3着がすべてシングルだったこともあり、「今回はダブルで!」と新たにスーツのご注文を頂戴しました。こちらの詳細は、改めてコラムにてご紹介する予定です。
ご子息のビスポークスーツの仕上がり
お父様に続き、ご子息のお仕上がりについてもご確認いただきました。英国調のスタイルを選ばれたお父様とは対照的に、ご子息が求められたのはイタリアらしい柔らかな雰囲気です。当店のハウススタイルである2面体の型紙を採用し、生地の特性を活かした立体的でモダンな一着に仕上がりました。ご試着の際、「今まで着たスーツの中で一番着やすい」と仰っていただけたことは、大変励みになりました。フィッティングの様子やこだわりのコーディネートについては、[こちらのコラム記事]で詳しくご紹介しております。
M様
パンツ仮縫い(スリーピース)
これまでに当店で4着のビスポークスーツをお仕立ていただいているM様。ご体型に変化があったため、5着目となる今回はサイズの再調整(リサイズ)を兼ねて仮縫いを行いました。まずはパンツの尻ぐりの収まりや股上の深さを慎重にチェック。フロントを手縫いでしつけながら、最適な寸法へと微調整を加えていきました。
ベスト仮縫い(スリーピース)

ベストは体に密着するアイテムのため、一般的にはウエストにややゆとりを持たせ背尾錠(バックストラップ)で調整できるようにお仕立てします。しかし、背尾錠を付けないのがM様の貫かれてきたスタイル。そのため、締め付け感のない絶妙なフィット感を表現できるよう、丁寧にしつけを打ちながら寸法を見極めていきました。仮縫いの際、ややバストに浮きが見られたため、お体の寸法と前丈のバランスを細かく再調整しています。
ジャケット仮縫い(スリーピース)



ジャケットは一度両袖を外し、肩のしつけも解いて傾斜をチェックしました。過去のフィッティングデータはありますが、お体の変化に伴い肩の傾斜角も変わっていたため、一旦、肩を開いて現在のラインに合わせた再確認を行いました。また、筋肉の付き方の変化に合わせて、肩甲骨への当たりや背中の収まり具合も入念に微調整いたしました。お体の変化だけでなく、使用する生地のハリや厚みによっても当たり方は変わってきます。MTMでもミリ単位の補正を行いますが、ビスポークでは生地の特性まで完全に見極めたうえで、型紙そのものへさらに緻密な調整を加えていきます。
【動画】仮縫いフィッティングの様子
実際の仮縫い現場で行われる、細やかな微調整の様子を動画にまとめました。写真や文章だけではお伝えしきれない、職人・小島氏によるミリ単位の手仕事の空気感をぜひご覧ください。
皆様への御礼とご挨拶
今回のビスポークオーダー会も、お客様に服づくりを深く楽しんでいただける大変濃密な時間となりました。ご来店くださった皆様、本当にありがとうございました。そして遠方より足を運んでくださった職人の小島様、ご協力ありがとうございました。皆様に改めて厚くお礼申し上げます。仮縫いや中本縫いを経て、皆様の想いやこだわりを形にするお手伝いができますよう、一着一着大切にお作りさせていただきます。完成の日を楽しみにお待ちいただけますと幸いです。






