アットヴァンヌッチが誇る独自の職人技や、洋服を引き立てるアクセサリーとしてのコンセプトについては、【ブランド紹介のコラム】で詳しくご紹介しています。今回は、なぜこのネクタイを選び、どのように当店のスタイルとしてご紹介しているのか、そのこだわりについてお話しします。
当店でアットヴァンヌッチの取り扱いをスタートしたのは、2022年の秋冬シーズンからです。日本へ本格上陸したのが2016年ですから、ショップとしては「後発組」のスタートとなります。 もちろん、それ以前からブランドの存在は知っていました。雑誌やSNSを見ていて「このネクタイ、素敵だな」と目に留まるものの多くが、アットヴァンヌッチのネクタイでした。しかし、当時は取り扱いには至りませんでした。一番の理由は、価格に対して、自分の中でその価値が完全に腹落ちしていなかったからです。一から生地を織り上げ、職人が手縫いで仕立てるアットヴァンヌッチのネクタイは、決して手頃なものではありません。良いものであることは分かっていたし、唯一無二の魅力を感じていたからこそ、これだけのネクタイをお客様にご紹介するには、まずは自分がその価値を十分に理解して、しっかりと腹落ちさせるべきだと思ったからです。
転機となったのは、当店が理想とするスーツ・ジャケットのスタイルをさらに深く追求し、その究極の形として「ビスポーク」を本格的に導入したことです。 自分自身が心の底から納得できるまで服作りを追求し、自信を持ってお客様にご紹介できるよう経験を重ねてきた時、ふと原点に立ち返りました。「これだけ仕立てを突き詰めたからこそ、自分がずっと良いと思い続けてきたアットヴァンヌッチのネクタイを、自信を持ってお客様にご紹介するべきではないか」と、確信しました。アットヴァンヌッチが持つ、スカーフのような軽やかさ、ふっくらとした立体感、そして風に揺れるような佇まい。気取らずに肩の力を抜いて締められるこのネクタイは、私が理想とする「軽く柔らかな仕立てのスーツ」に間違いなく美しく調和する。そう確信を持てたことが、取り扱いを決めた最大の理由です。
当店がアットヴァンヌッチをご紹介する理由
私はかれこれ30年間ファッション業界に身を置き、自分自身でも色々な服を着て、様々な商品に触れてきました。その結果として辿り着いたのが、「シンプルで上品な装い」です。これは私自身の経験だけでなく、これまで多くのお客様の装いを拝見してきても、強く感じることです。色々な装いを経ていく中で、最終的に「クラシックでベーシックなスタイル」の良さに気づく瞬間があるように思います。それは、時代や世代を問わず普遍的なものです。 だからといって、それは「変化に乏しく、個性がない」ということではありません。クラシックでベーシックなスタイルだからこそ、ほんの少しの「微差」が決定的な重要性を持ってきます。素材同士の相性や、繊細な色の濃淡によるグラデーション、あるいは柄の組み合わせにほんの少し意識を向ける。そのわずかなこだわりによって、クラシックでありながら、上品でモダンなスタイルが完成します。
アットヴァンヌッチのネクタイは、まさにその「微差」を表現するのに最適なアイテムです。シンプルな白シャツやサックスブルーのシャツに馴染み、控えめで繊細なストライプシャツとも素晴らしい相性を見せてくれます。存在感がありながら出すぎることなくわき役に徹しているので、洋服や着る人を引き立てることができます。 当店が理想とする「軽く柔らかな仕立てのスーツやジャケット」を、スカーフのような感覚で引き立て、大人の上品な色気を醸し出す。着る人と洋服を最も美しく輝かせるためのピースとして、私たちはアットヴァンヌッチをご紹介しています。
当店がセレクトする、アットヴァンヌッチのモデル
アットヴァンヌッチといえば「セッテピエゲ」が広く知られていますが、それ以外にも魅力的なモデルが存在します。当店では、それぞれの生地が持つ風合いや肉感をしっかりと見極めた上で、最適なモデルを一つひとつセレクトしています。ここでは、そのようにして選び抜いたアットヴァンヌッチのモデルをご紹介します。
アットヴァンヌッチのソフィア




当店が最も力を入れて展開しているモデルが、この「ソフィア」です。構造自体は通常の3つ折りですが、職人の手畳みと手縫いによって仕立てられているため、前から見ると非常に柔らかな雰囲気があり、一見するとセッテピエゲと見分けがつかないほどの軽やかさを持っています。それでいて、実は内側に薄い一枚芯が入っているという、非常にユニークなモデルです。 この芯地があることで、どなたでも非常に形が整えやすく、なおかつセッテピエゲのように深くギュッと締め込めるため、結び目(ノット)が小さくまとまり、胸元が綺麗に決まります。芯なしのセッテピエゲのような軽やかな雰囲気と、コンパクトで美しいノットが簡単に表現できるのが、ソフィアならではの魅力です。このソフィアには、大剣にライニング(裏地)が付いた「フォデラート」と、ライニングのない「スフォデラート」の2種類が存在します。しっかりと端正な表情を作る裏地有り(フォデラート)に対し、裏地を省いたスフォデラートは、より軽やかな雰囲気を楽しむことができます。
かつてはオーダーのみで展開されていた特別なモデルが、既製品として復刻されました。 スカーフのような軽さでアクセサリー感覚で楽しめ、なおかつ展開しているショップが少ない希少なモデルです。 名古屋地区ではセッテピエゲの展開が多く、このソフィアをオーダーしているのは当店だけです。だからこそ、当店でスーツやジャケットを仕立ててくださる、洋服に深いこだわりのあるお客様にぜひ一度お手に取っていただきたいと思い、毎シーズン大切にご用意しています。
クアトロピエゲ(Quattropieghe)


イタリア語で「クアトロ」は数字の「4」を意味し、文字通り生地を4回折り畳んで作られているモデルです。 セッテピエゲ同様、スカーフのような軽やかさがあるのが特徴です。たとえばウールなどの肉厚な生地をセッテピエゲ(7回畳み)にすると、結び目にボリュームが出すぎてしまう場合があります。そうした生地の風合いや肉感をしっかりと見極め、厚みが出すぎず軽やかな仕上がりになるよう、このクアトロピエゲでオーダーしています。畳む回数が少ない分、厚みが出すぎず軽やかな仕上がりになります。ソフィア同様、クアトロピエゲも展開しているショップが非常に少ないモデルです。2026年1月のオーダー時点において、名古屋地区でこのモデルを展開しているのは当店だけです。生地の魅力を最大限に引き出した特別な仕上がりを、ぜひお楽しみください。
セッテピエゲ (Settepieghe)


アットヴァンヌッチの代名詞であり、ブランドの魅力を最もピュアに体感していただけるモデルです。芯地のない手畳みならではのふんわりとした軽さは、当店の「軽く柔らかな仕立てのスーツやジャケット」の胸元に軽やかなニュアンスを添えてくれます。このモデルにおいては、展示会に並ぶ膨大な生地の中から、ドライタッチで表面が硬めのクリスピーな生地や、スカーフのような薄手のプリント生地を中心にセレクトしています。生地そのものが持つ質感と、セッテピエゲならではの優雅なドレープが最も綺麗に調和する組み合わせを意識しています。
アットヴァンヌッチといえば、ブランドの顔である「セッテピエゲ」を中心にセレクトするのが王道ですが、当店では3つ折りの一枚芯モデルである「ソフィア」を中心に、生地の特性に合わせて「クアトロピエゲ」や「セッテピエゲ」を組み合わせて展開しています。その理由は、ネクタイを単体として見るのではなく、あくまでも当店のスーツやジャケットとの相性を最優先に考えているからです。当店でスーツやジャケットを仕立ててくださったお客様が、日々の素敵な着こなしを楽しんでいただけるよう、コーディネートの重要なピースとして、アットヴァンヌッチのコレクションの中から最適なモデルを一つひとつ自らの目でセレクトしています。
アットヴァンヌッチの着用感と仕様へのこだわり
私自身、このコラムを書いている時点でセッテピエゲを6本、ソフィアを7本、計13本のアットヴァンヌッチのネクタイを所有しています。他にも30〜40本のネクタイを持っていますが、当店でこのブランドの取り扱いを始めてからは、実は他のネクタイをほとんど締めなくなってしまいました。理由は、アットヴァンヌッチのネクタイは一日中締めていても首元に窮屈さや苦しさを感じないからです。この心地よさを一度味わってしまうと、どうしてもこればかりに手が伸びてしまいます。ここでは、私が日々コーディネートを楽しんでいるリアルな私物をご紹介します。
私が愛用するセッテピエゲ
現時点で私が所有しているセッテピエゲは、こちらの6本です。ネイビーが2本ありますが、偏りすぎないようにバランスを意識して買い足してきました。素材は「クリスピーな質感のもの」「プリント」「ガルザ(フレスコ織り)」の3種類に分かれます。
[クリスピーな質感のもの]


ドライタッチでやや張りのあるクリスピーな生地はこの3本です。こうした素材をあえてプレスせずに手で畳むことで、生地本来の反発力が活き、ふんわりとした立体的なフォルムが生まれます。実際に締めてみるとディンプルが作りやすく、首元にボリュームを持たせた綺麗なノットに仕上がります。
[プリント]

2本のペイズリー柄はいずれもシルクプリントです。薄手のプリント生地をセッテピエゲに仕立てると、まさにスカーフのように軽やかに揺らめくため、スーツでタイドアップしてもどこかリラックスした雰囲気を表現できます。先ほどのクリスピーな生地がふんわりとボリュームのあるディンプルに仕上がるのに対し、こちらは細かく繊細な表情を作れるのが特徴です。コンパクトにまとまったノットから流れる、優雅なドレープが楽しめます。
[ガルザ]
そして、このガルザは当店で初めてアットヴァンヌッチのセッテピエゲをオーダーした際の一本です。当時はその軽やかな見た目から「芯なしのセッテピエゲに向いている」と考えたのですが、実際に自分で購入して日常で締めていくうちに、少し捉え方が変わりました。薄く柔らかなシルクのガルザは、決してハリやコシが強い生地ではありません。かと言って、先ほどのプリント生地ほど風にふわっと揺らめくような軽さとも少し異なります。そのため、この素材が持つ上品な透け感や軽やかさを最も活かすには、実は一枚芯の入った「ソフィア」で仕立てた方が、より綺麗に収まるのではないかと気づきました。 最初から全てが完璧に分かるわけではありません。だからこそ、こうして自分自身で実際に使い、肌で感じた気づきを一つひとつ蓄積していくことが、次回の仕入れやお客様へのご提案の精度を高めるために大切だと考えています。
私が愛用するソフィア
現時点で所有しているソフィアは7本です。色々な柄を選んでいたつもりだったのですが、こうして並べてみると見事に無地とストライプばかりですね(笑)。右の3本のソリッドタイはウール100%のホップサックでドラッパーズで定番展開されているジャケット生地です。
[ウール100% ホップサック]


こちらの2本は、ウール100%のホップサック生地です。先ほどセッテピエゲのところで触れた「ガルザ」と質感が似ているため、その時の経験を活かして、この生地はソフィアのモデルでオーダーしました。 ソフィアは「薄い毛芯が1枚入っていること」が基本の構造ですが、並んだ写真の左右を見比べていただくと、実はそれぞれ仕様が異なります。同じホップサックの生地でありながら、あえて芯地の使い方を変えているのです。その理由は、実際の締め心地やノットの立体感にどのような変化が生まれるのかを自分自身で検証し、その生地にとっての「ベストな仕様」を深く理解するためです。それぞれに異なる魅力があり、左のグレーのように、毛芯に加えてスレキ(薄い布)を使用することで生まれるハリとコシを備えた端正な表情もあれば、右のブラックのように毛芯1枚のみだからこそ表現できる柔らかなニュアンスもあります。同じ生地であっても、芯地のわずかな組み合わせによってそれぞれの個性を引き出すことができます。 このように、同じモデルであっても生地の肉感や風合いに合わせて細かく仕様を変え、その仕上がりの違いを肌で感じることで、次回の仕入れやお客様へのご提案へと活かしています。
[その他の私が愛用するシルク100%のソフィア]
こちらのシルクタイも、私の日々の装いに欠かせない定番です。ウール素材だけでなく、こうしたシルクのモデルでも同様にスレキを入れて締め心地を検証しています。適度なハリとコシが加わることで、ふっくらとした立体感のあるディンプルを作ることができます。
私が思うアットヴァンヌッチの魅力
アットヴァンヌッチの最大の魅力は、存在感がありながら決して出すぎることなく、「引き立て役に徹することができる」点にあります。色柄はどれも唯一無二で個性的です。しかし、それは奇をてらった奇抜さで人との違いをアピールするようなものではありません。エレガントでありながら静かに個性を表現する、そんな上品さを持ち合わせています。そのため、ネクタイ単体として見ても非常に魅力的なのですが、実際にスーツやジャケットとコーディネートしてみると、驚くほど洋服そのものが素敵に引き立ちます。
また、ハンドメイドならではの「縫いの甘さ」や「柔らかな仕立て」が生み出す、独特の締め心地と佇まいも大きな魅力です。芯地を使用しないセッテピエゲや、一枚芯の柔らかな仕立てのモデルまで、いずれも手縫いで仕上げられているため、ネクタイを締めたときに首元に苦しさがありません。タイドアップならではのキッチリ感はありつつも、どこか肩の力が抜けた、リラックスした装いを叶えてくれます。
アットヴァンヌッチのネクタイは、着る人と洋服の魅力を引き立ててくれる唯一無二の存在です。是非、コーディネートに取り入れてみてはいかがでしょうか。いつものスタイルが新鮮に映りますよ。当店では毎シーズン、様々な生地と色柄でアットヴァンヌッチのネクタイを展開しておりますので、店頭でお手に取ってその素晴らしさに触れていただければ幸いです。













